第15話:酒と暴発
「…………」
さて、どうしたものか。悩んでいると、エルフ側から提案があった。
「イゾルデ様をエルフに戻せ」
と。もちろん却下。そんなことをすれば彼女がどう暴発するのかは目に見えている。そのまま聖域に火をつけて去っていく未来まである。まぁ神樹を燃やすのかと言われると、その気は無いように思えるが。
「き・さ・まぁ……」
「とにかくゆっくりしていってくれ。聖域の果物は勝手にとっていいし、穀物の類は欲しいならどうぞ」
で、俺はと言えばお米を炊いていた。水と火は埋葬術で。そうしてホカホカのご飯が出来上がる。
「うーん。デリシャス」
俺が食う隣で、ルミナスもお米を味わっている。美味しかったのか。目がキラキラしている。
「…………ママ……美味しいね」
「だろう。米は日本の文化だな」
「…………にほん?」
そういやここは異世界だったな。
「あんまり気にせんでいい」
そんなわけで、お米をモグモグ。
「おーい。アーゾル氏。酒が出来たのじゃ」
え。マジ?
ドワーフのゴーティは錬鉄と酒造の双方を管理している。彼が酒を造れると言ったのは最近のことなのだが、思ったより早くできたらしい。とはいえ発酵にも時間はいるし、いうほどすぐにというわけでもない。数ヶ月くらいはかかっている。ワインとかビールが基本だ。蒸留酒も作ろうとは提案してある。酒蔵に色々と酒造用の品が増えているのはそのためだ。とりあえずビールを一杯。
「うっま!」
最初の一口。そのまま喉ごしに驚いていると、ニヤッとゴーティが笑った。
「何せ神樹様から採れた麦だ。味に関しては信頼してくれて構わんぞ?」
「うおー」
グビグビと呑んで、そのままアルコールの息を吐き出す。
「これは美味い。グッジョブ親方」
「おう。何せ神樹の麦だからな。そういう意味ではグッジョブはアーゾルの方じゃぞ」
「…………美味しいの? ……ママ」
もちろん子供が興味を持つのは必然で。もちろん飲酒の法など無いので、ビールを飲ませてみる。
「…………苦い」
そうだろうな。この苦さがいいのだが。まだまだルミナスは子供舌。ワインの方も飲ませてみると、こっちはそこそこの反応。
「…………美味しいけど……フワフワする」
あっさりと酔ったらしい。そういやエルフにアルコールの分解機能ってあるのか? アセトアルデヒドは間違いなく人体にとって毒だが、そもそもエルフは大丈夫なのか。
「親方。蒸留酒の方は……」
「おう。作っておるのじゃ。大麦が美味いからの。ウィスキーも期待しておいてくれ」
「うっし」
そんなわけで、聖域での酒の普及に努める親方。とはいえダークエルフ三人とドワーフ三人だけなので、あまり大量に作らなくてもいいのだが。今はエルフがさらに五人滞在しているが、こっちに振る舞ってもまだしも余る。
「お酒……ですの?」
ついでにだが、オールゴール王国の王女様……ハンドベルもたまに来訪してきて、お酒に食いついた。ビールとかワインを飲ませてみる。思ったよりご好評。美味しい美味しいとカパカパ飲んでくれる。だがあまり酒には強くないのか。ダウンしていた。味の美味い酒を飲むとつい飲み過ぎてしまうのはよくあること。俺の本体に漢方を処方してもらい、二日酔いにならないことを祈るのみだ。
「麦。リンゴ。ブドウあたりか。酒に出来るのは」
「レモンとかあると酒がさらに美味くなるのじゃが」
「柑橘類も採取できるようにするか」
そのようになった。しばし酒が聖域で流行り、ハンドベルも王国に持ち帰ると言い出す。とは言っても樽ごと運ぶわけにはいかない。次来るときに荷台を用意すると気合に入れようが間違っているような妥当のような。そうして野菜も穀物も肉もとれて、酒もあるという幸せを噛みしめながら毎日宴会を開く。ドワーフが酒造りに余念がないのは理解できて。俺からは米の採取と脱穀に必要な器具を作ってもらう。水田を用意しなくても米がとれるのは嬉しい誤算。
「むにゃー」
そうして米を食いながら野菜と肉をおかずに。食事が終わったら酒を飲んでベッドに入る。親方が作ってくれた屋敷は居心地がいい。そのままアルコールの助けも借りて、俺は就寝する。
「むに……」
そして次の朝。ベッドから起き上がって、いつものごとく朝の光を浴び、そうして目覚めのコーヒーを飲んでいると。
「?」
だいたい同じ時間に起きてくるルミナスがいないことに気付く。屋敷の個室にはいないので、どこか遠出をしているのか。仕方ないので、ルミナスにマーキングしている呪術のレンジを遡る。梵我反転の応用だ。糸状にフィールフィールドを伸ばすことで最低限の体積でどこまでも追跡できるようにしたもの。あくまで梵我反転で問題になるのは総合的な体積なので、糸状にすればかなり遠くまで伸ばすことができる。
「苦楽王」
その意図を通してルミナスのフィールフィールドをクラック。そうして状況を見ると。
「あー」
歓待していたエルフ五人が彼女をさらっていた。ロープで縛り上げ、そのまま人攫いの要領。これは助けに行かんとマズい感じか?
「アーゾル!」
で、何故か無事であったイゾルデが、俺に置手紙を渡す。見たことのない文字だが意味は分かる。まぁベタと言えばベタで。ルミナスを返してほしければイゾルデ様を……云々。
「どうするであります……?」
「救助に向かう……以外の感覚が俺には無いのだが」
「でもエルフの王国に向かうって話になるでありますよ?」
「いい加減ムカついていたところだ。ここで徹底的に潰す」
「エルフの王国を?」
「エルフの王国を……だ」
「せめて温情とか……」
「そんなものを期待出来る信条に見えるか?」
「愚問でありました」
「な、わけで、後はルミナスの扱い次第だな」
「御尤もでありますが」
「傷の一つでも付けようものなら……」
「私が何とか説得しますのでアーゾルは冷静に……」
「リリスの娘を危険にさらしただけで、裁判なしのギルティなんだが」
「そこをなんとか~。マジでアーゾルがその気になったら誰も止められないであります~」
「今のところ攫われているだけなので、場合による」
「大丈夫であります。説得はこっちに任せてもらえれば」
「ちなみに血が一滴でも流れたら全面戦争になるから、それは納得しろよ?」
「バカどもの良心を期待するや切であります」
脂汗を流しているところ悪いが、ガチでルミナスに何かあったら、俺は自分を抑えきれないと思う。エルフの存在を根絶やしにして満足できれば御の字だろう。
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