第12話:聖域の広がり
「むふふふ」
で、リリスから借り受けているアバターはいつものようにちょこまか動いているのだが。本体の俺が何もしてないかというとそんなわけもなく。さすがに俺とルミナスに関する植物の悪意がウザいので、密かに……というほどではないが適当に眷属を増やしていた。果実を生らして、種を拡散。そうして俺の眷属の植物を増やす。もちろん周囲は森なので、最初からある木々は倒れてもらった。ルミナスの畏怖を使うことも考えたが、今後のことも考えて、俺が一人でダークエルフを嫌悪しない眷属を作る実験をしたかったというのが本音だ。そうして着々と以前からある森を俺の眷属で上書きしていく。弾かれた植物は肥料として、さらにそこから苗と種が生育するように。
「最近、周りの森がうるさくないでありますね」
聖域と呼ばれている俺を中心とした空間。それを囲うような潔癖症の森。その森が意見を変えた。エルフにはそれがわかるのだ。
「ダークエルフにも優しい森をつくりたいからな」
「ほえー。そんなことをもできるんでありますね。アーゾル様」
「あとゴブリンとかトロールを駆逐できればいいんだが。ああいうのも超越種なのか?」
「まぁ定義をするなら超越種になりますが……人間からは敵対種って言われていますね」
「敵対種」
「いわゆる人間にとって仮想的とされるイメージが精霊化して、さらにそれが受肉化したんがゴブリンやトロールとされていますので。受肉した精霊という意味ではエルフと変わらないんですが、根本的に人間との敵対という意味で、彼らとは対話が望めないんであります」
「ふむ」
とすると、その敵対概念が何故この森に集約するのか。
「近くに人間の王国がありますから。それじゃないですかね」
「オールゴール王国?」
「ええ。人間が集合すると、その周辺は敵対種が発生します。その上で、開拓されていない森があると、『そこにモンスターがいそう』という集合無意識が……」
「つまり完全に自家中毒かよ」
とりあえず、じゃあこの森が怖くないことをアピールして周囲に良い印象を持たれないと始まらないわけか。
「ていうか、アーゾル様の眷属ってアーゾル様とどう違うので?」
「単純に俺固有の意思を持ってないってだけだ。悪意を持たないように調整はしているが、それと俺の意識が共有されるかは別問題だな。別に出来ないわけではないんだが」
「神樹の森にされると」
「それが一番手っ取り早いかな」
そんなわけでダークエルフが過ごしやすい森をつくることに腐心する。
「ルミナス!」
「…………もしもクマが聖域に現れたら」
「グガァァァァッ!」
さすがにゴブリンやトロールは食う気がしないので、肉食は獣になる。そもそも超越種って食って美味いのか?
「…………葛藤」
千事略決で斬撃呪術を使い、一撃でルミナスがクマを殺す。その皮を剝いで、肉は食用に。そうしてウマウマと食べている俺とルミナスを、
「うわぁ」
と引いているイゾルデ。その口に肉を突っ込む。
「むーっ! むーっ!」
「いいから噛め」
「もぐもぐ」
焼いた肉と塩を食わせる。
「う……まい」
「だろ」
塩は地中から取ったものだ。元は海だったのかもしれない。
「ところで、これからどうするんですか?」
「世界征服」
「ガチで?」
「もちろん冗談だ」
そんなカロリーの高いことできるか。
「とにかく世界中のダークエルフがウチに来ればいいなぁ……みたいな」
「たしかにここはダークエルフにとって心地よいでありますが」
実際にダークエルフになってしまったイゾルデの真摯なお言葉。
「ハローですわ。アーゾル様」
オールゴール王国の王女も普通に現れる。
「これはイゾルデ殿下」
「あー、ども」
既にダークエルフであるのでどうしたらいいのかわからないのだろう。俺も知らん。
「それで要件とは?」
「この森がアーゾル様の眷属に侵食されていると聞きまして」
否定はしない。
「少し開拓……というか森の恵みを貰いたく」
「それは別に構わんが。ゴブリンとかトロールとかはいいのか?」
「アーゾル様が聖域を広げれば、きっと現れなくなるのでは、と考察しております」
それもそうか。
「できればあの不思議の実を配給していただくと嬉しいのですけど……」
「却下」
「むぅ」
「国家が傾きそうなときだけ言ってくれ。その時は協力しよう」
「一応父……国王が救われたので、オールゴール王国はアーゾル様に恩義を感じていますのよ?」
「そこはまぁ仲良くやっていけたらと」
そんなわけで、俺の欲しいものを持ってくるように頼んでみる。現状欲しいのは家だ。周囲の森……その中で俺の眷属でない木々を材料に家を作ってもらう。
ん? その場合、家が出来ても木材から嫌われたりするのか?
「無いでありますよ。死亡扱いになるから」
「そうか。ということは俺は同族の死体を積み上げた場所に移住することに」
「そこまで考えても意味が無いのでは?」
それもそうか。
「というわけで! ハンドベル。聖域に家を造ってもらえる? 森での護衛はこっちでするから」
「構いませんけど。大丈夫でしょうか?」
「任せなさい。トロールより強いぞ俺は」
「それは疑っていませんけど」
「あと担当する建築家には俺の果実を食わせておけ。そうすれば俺の呪いを受けることができる」
「呪い……ですの?」
「あらゆる攻撃を反射する呪いだ」
「それって無敵じゃあ」
「だから建築家の安全は保障するって。死なれても困るし。食事に関しては困らせることは無いと思う。俺もそうだし、聖域の森は幾らでも果実や野菜を取ってくれて構わん。肉が食いたいならそっちにも都合は付ける」
「では最高位の建築家に声をかけてみますわ」
「お願い! あ、それからこれコーヒーな。茶葉もあるし。持って帰ってくれ」
「お茶が獲れるんですの!?」
「何か問題か?」
俺が疑問を抱くと、お茶はもっと東の国からしか輸入できないらしい。結果貿易で高値になりやすく、お茶は嗜好品。だから聖域でお茶が取れるならこれ以上は無いという話らしいのだが。これくらいは普通にできるぞ。
読んでくださりありがとうございます!
作者のモチベ維持のためにも★で評価していただければ幸いです。
応援もしてくれていいのよ?