表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

「告白ドッキリ、だったんだよね?」死ぬ間際の夫が、私にそう問いかけた。

作者: 赤井藍

嘘コクからガチ恋へ。そんな2人のお話です!

美香(みか)……一つ、聞いてもいい?」


「……うん」



 少し涙声になりながら、私は返事をする。


 一呼吸おいて、夫が口を開いた。



「──告白ドッキリ、だったんだよね?」


「…………え?」



 死の間際をさまよっている夫からの一言に、私は大きく衝撃を受けた。


 バレてないと思っていたから。


 私の頭の中に、当時のことがフラッシュバックした。




 ☆




 それは、私、橘美香(たちばなみか)と夫の汐田陽向(しおたひなた)が高校2年生のときのこと。


 私はいわゆる陽キャと呼ばれるグループに分けられた。私は仲間内で行ったとあるゲームで負けてしまい、罰ゲームを受けることとなった。



「ん〜そうだね、あれだ! 告白ドッキリなんてどうよ! 」


「え〜? マジ〜?」


「みっちゃんが負けたのが悪いじゃん。はい、罰ゲームこれで決定ね!」


「んー……おっけ〜。誰にすればいいのよ」


「そうだな〜……汐田なんでどうよ?」


「えぇー、汐田ぁ?」



 当時の陽向は、寡黙で無愛想……というより鉄面皮と言った方が正しいかもしれない。常に無表情で、口数も少ないため、クラスではそこそこ避けられていた。


 準陰キャ的なポジションだったのだ。


 実際は運動も勉強も人より上手くでき、ポテンシャルは高かったので、進んで話そうとする人がいないだけで嫌われてはいない。


 だが、当時の私は、よく知りもしないくせに陽向がつまらないやつだと決めつけ、それはもうドッキリだとしても嫌であった。


 いっその事、告白の場に来ないで欲しいとすらも思っていた。


 きっと今の私が当時の私と話せたら、「もっと大切にしろよ!」と言うだろう。


 それほどまでに、当時の私は陽向のことを何も知らず、今の私は夫のことを深く愛していた。



 告白ドッキリ当日。


 陽向は時間通りに校舎裏に来た。定番のスポット。ラブレター。全ての状況が、これが告白であると証明している。ただ一つ、私の気持ち以外は。


 全く気は乗らなかったが、罰ゲームをやらなければグループから外されるのは目に見えている。



「えっと……汐田くんのことが好きです! 付き合ってください!」



 手を差し出し、下を向いている私の顔は、酷く嫌そうに歪んでいた。ドッキリである以上、バレないようにはしていたが。


 10秒ほどして、ようやく陽向は口を開いた。



「……よろしく、お願いします」



 私が顔を上げると、陽向は手を握ろうとするのを少し躊躇い、結局私の手を取らなかった。


 安堵と同時に疑問を感じ、陽向の顔を見ると、少し寂しそうに微笑む彼の顔があった。


 初めて見る彼の表情は、この先何度も見ることになる表情だった。




 ☆




「──汐田くん、今週はどこ行く?」


「映画、見に行かない? 橘さん」



 私たちの関係はしばらく続いた。



「──ねぇ陽向くん? 土曜日ひま?」


「うん。遊園地行かない? 美香さん」



 そして私はだんだん陽向の魅力に気づいていった。



「──美香、今度のデート、僕に任せてくれない?」


「いいよ、陽向。楽しみにしてるね」



 高校を卒業し、2人同じ大学へ入学。

 私の友達も、「まさかドッキリからここまで続くとは」と驚いていた。「あの汐田とねぇ」なんて言った時は手が出そうになったが。


 過去の私に一発ビンタを食らわせてやりたいくらいだ。何が嫌なんだよ。こんなに優しい陽向の!



 同棲するようになって、私は更に陽向の良さ、凄さ、魅力に気づいた。


 元々彼は、細かな気遣いができる人だった。


 常に車道側を歩き、私の歩く速度に合わせて歩いてくれる。悩みを真剣に聞いてくれるし、映画館デートなんかでは、他人と隣の席になるのが嫌な私のために、端の席を予約してくれる。


 そんな陽向は、家でも細かな気遣いをしてくれた。というより、私が過ごしやすいようにしてくれた。


 私が苦手な料理や掃除を進んでしてくれたり、ハウスダストがダメな私のために、私の家の中での行動範囲には細かいところにもホコリは溜めなかった。


 靴なんかも気づいたら揃えてくれるし、荷物も整理整頓してくれる。


 もちろん私も陽向のためにできることはしたが、それでも陽向は、いい彼氏であった。



 でも、そんな中で、陽向はやはりあの、寂しそうな表情を見せることがあった。少し伏し目がちに、私のことを見つめる。そんなときがあった。



「陽向、何か嫌なことでもあったの?」


「あっいや、なんでもないよ。少しぼーっとしてただけだからさ」


「そう? ならいいんだけど。何かあったらなんでも言ってね?」


「うん。ありがと」



 それでもやはり、陽向は寂しそうに微笑むだけだった。




 ☆




 大学卒業を機に籍を入れ、陽向は私に婿入りした。


 なぜ婿入りしたのかを聞くと、「美香から奪いたくないからだよ」と言われた。別にこだわりは無いからいいのだけど、陽向が私を思ってしてくれたことが嬉しかった。


 親にお金を借りる形で結婚式を開き、お互い少し友人を呼んで式を行った。


 大きな式ではなかったが、とても幸せだった。皆が私たちのことを祝ってくれて、嬉しかった。


 でも、陽向の顔には、ほんの少し、寂しそうな笑みが混ざっていた。なぜそんな顔をするのか、私には分からなかった。



「ねぇ陽向? 愛してるよ」


「うん、僕も……」


「……陽向?」


「美香のことを愛してるよ」


「ふふっ、ありがとっ!」



 どんな悩みも、陽向からその言葉を聞くだけで軽くなる気がした。ドッキリから始まったけど、私は陽向と出会えてよかった。




 ☆




 夫婦になってから初めての夜。


 結婚するまで陽向は、私にキス以上の深い行為をしてこなかった。私も経験はなかったので、私から積極的に迫るのが恥ずかしかったり、怖かったりするのもある。


 でも、今は正真正銘の初夜だ。


 夕食後陽向に、今日しようと伝えた。すると陽向は、困ったように目を伏せ、しばらくしてから頷いた。



 そして、ベッドの上。



「……ほんとにいいの?」


「……うん、いいよ。来て」


「…………」



 それでも陽向は私に触れるのを躊躇い、あまり嬉しそうではなかった。



「私とするの、いや……?」


「いや、違っ……その、僕が美香としていいのかと思って」


「夫なんだから、いいに決まってるよ」


「でも、その……」



 それでも陽向は私に触れるのを躊躇して、口をもごもごとさせていた。


 焦れったくなってしまった私は、陽向が来ないのなら、私から行こうと思い、陽向を押し倒した。



「み、美香?」


「陽向が来ないなら、私が行く。今日は寝かさないからね」


「えぁ、ちょっ!」



 詳しくは言わないが、よかったとだけ言っておこう。




 ☆




 陽向と過ごした様々な場面が頭に浮かび、そのどれもが、私がドッキリで告白したことを知った上でしてくれていたことを知った。


 いつから……いつから知ってたの?



「……いつ知ったの?」


「……美香に告白される前。偶然話を聞いちゃったんだ。…………盗み聞きみたいなことして……ごめん」


「そんな。陽向が謝らないで。私が悪いの」



 最初から知ってたの? 最初から知っててもなお、私と付き合ってくれたの?


 寂しそうに笑っていたのも、苗字を私のものにしたのも、私に触れるのを躊躇ったのも、全てドッキリだと知っていたから? だとしたら陽向は……どれだけの間、苦しみ続けたの?


 働き続け、残業が続き疲れた中帰路に着いた。その帰路で陽向は、高齢者が運転する暴走した車に轢かれて病院に送られた。


 状態は一向に良くならず、今こうして話せているのも奇跡だ。


 せめて、陽向に正直に伝えなければ。



「陽向」


「うん……?」


「私は陽向のことが好き。大好き。愛してる。これが私の本音。確かにドッキリで始まったけど、私は本当に陽向のことが好きなの」


「そっか……ふふ、嬉しいな」



 陽向は、力なく微笑んだ。でも、寂しそうな笑みではなく、嬉しそうな笑みであった。



「……僕ね、ドッキリだと分かってても、美香から告白されて嬉しかったんだ」


「え?」


「美香のことが、好きだったから。たとえそれがドッキリで、嫌われてると分かってても……少しの間夢を見れるだけで嬉しかったんだ」



 ……は? 告白されたから了承したのではなく、好きだから受け入れたってこと? だとしたら私は、こんなに優しい陽向と一緒にいられるような人じゃない。


 私は極悪人じゃないか。クラスでの立場を気にし、相手の気持ちを踏みにじるような行動をした。最低だ、私。


 陽向は、少し間を開けてから話し始める。



「……すぐ振られると思ってたんだ。だから、嫌な思いをさせないように、紳士的な振る舞いができるようにしたんだ」


「そう……なんだ……」


「でも実際は全然振られなくて。同棲するまではいつもビクビクしてたなぁ……」



 私は陽向のいい所に気づいてしまった。だから、陽向を手放せなかったのだ。


 手放すのが惜しかった。陽向なしでは居られなかった。



「結婚したときは、ほんとに嬉しかったな。……まだ、少し怖かったから」


「ごめん……ごめんね…………」


「謝らないでって。……初夜は、正直迷った。僕が美香に触れていいのか、僕なんかが触れていいのか」



 だから、私にずっと手を出さなかった。大切にされているんだろうと嬉しかったし、もどかしくもあった。


 でも、陽向はずっと迷っていたのだ。私のせいで、陽向はずっと迷っていた。



「……僕は美香に感謝してるんだ。美香のおかげで、僕はこの8年間がとても楽しかった。一緒に居れるだけで嬉しかった。……全部、美香のおかげだよ」


「そんな……私はただ、陽向を離したくなかっただけで……」


「それでも僕は嬉しかったんだ。……どうせなら、最後は笑ってる顔が見たいなぁ。楽しい話しよう?」



 陽向はだんだん元気がなくなっていく。それでも楽しそうに、嬉しそうに私と話をしている。空元気でも、陽向は最後まで私と話そうとしてくれている。


 最後まで私のことを考えてくれる陽向に、私は何をあげれたのだろうか。陽向におんぶに抱っこ。いつも尽くして貰ってばかりだ。


 私にできたことは、気持ちを伝えることだけ。




「陽向……大好きだよ……?」


「うん。ありがと」



 涙が込み上げ、目の前がぼやける。すると暖かい手で陽向が私の涙を拭ってくれた。


 いつまでも優しい陽向。もう二度と、陽向のことは裏切らない。



「……美香」


「……ん」


「愛してる……よ…………」


「うん。私もっ……愛してるよっ! また会おうね」


「…………」



 陽向はそれを聞いて微笑むと、私の手を握る手から力が抜けた。病室にピーっという音が響き、静寂の中、その音が私に現実を突きつけた。




 ☆




 あれから数年。私は墓参りに来ていた。



「陽向。また陽向が居なくなってから1年過ぎちゃった」



 陽向の墓石に水をかけ、掃除しながらそう話しかける。



「陽向、今日は優花(ゆうか)を連れてきたの。大きくなってきたし、そろそろいいかと思って」



 私の左手を小さな手が握りしめている。



「まま、これだれのおはか?」


「これはね。優花のお父さんのお墓だよ」


「おとーさん?」


「そう。優花のパパだね」


「ふーん」



 あまりよく分かっていない様子の優花に苦笑しながら、私は陽向に話しかける。


 陽向が死んでしばらくして、私は妊娠していることがわかった。その子供が、優花なのだ。陽向が残した命。私はそれを残すために、必死に働いた。


 陽向のところに連れてくるのは初めてだ。



「優花は陽向に似てるね。優しくて、思いやりのある子。私みたいな嫌な奴にならないといいのだけど」



 そんなことないよ。そう否定してくれる人はもういない。陽向はもういない。


 だからせめて、陽向の優しさを私が娘に与えれるようにしたい。シングルマザーでも、娘を立派に育て上げたい。



「おとーさん……」



 優花が墓石を見上げる。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。



「……!」


「おとーさん! うぅぇ〜ん! おとーさん!」


「ゆ、優花?」



 すると突然、優花が大声を上げて泣き出した。


 私は優花を抱き上げ、背中をポンポンと叩く。


 優花は優しい子なのだ。感情豊かで優しい子。それに、聡明だ。きっと、自分の父親が遠くに行ってしまったことを理解し、悲しんでいるのだろう。


 本人はなぜなのか理解していないだろう。でも、私はきっとそうだと思う。



「優花、大丈夫だよ。お父さんは、ずっと私たちのことを見守ってくれてるから」


「ぐずっ、ほんとぉ?」


「ほんとだよ」


「……えへへ、おとーさん」



 優花は泣き笑いをしながら、お墓に向かって手を振る。


 陽向は今、どこにいるのだろうか。私は、どこまでも広がるような青空を見上げ 、問いかける。



 あなたは今、どこにいるの?



 ──頑張って、美香。



 背後からそう言われた気がして、バッと後ろに振り向く。だが背後には誰もいなかった。



「ままどうしたの?」


「ううん、なんでもない」


「なんかままうれしそう!」


「ちょっと嬉しいことがあったの」


「ふーん。じゃあわたしもうれしい!」



 優花の手を引き、陽向のお墓を後にする。


 待っててね、陽向。陽向の分まで、私が優花を育て、色々な景色を見てくるから。


「うん」と聞こえた気がしたが、私は後ろを振り返らずに、前を向いて進んだ。

○汐田陽向視点



──美香、頑張ってね。


これから僕はいなくなる。もう二度と美香と一緒にいられなくなる。


大変かもしれない。苦しいかもしれない。それでも僕はいつまでも君の味方で、君を見守ってるから。


僕の分まで、長生きして、人生を楽しんで来てね。



言うことは出来なかったけど、そう思いながら、僕は眠りについた。


君といれて、僕は幸せだった。




○橘美香視点



遂に私の番が来た。病院のベッドの上で、娘夫婦と孫たちに見守られながら、私は死ぬだろう。


温かい。とても温かい。


私は幸せ者だ。良き夫、娘、娘婿、孫。温かく良い人たちに囲まれて生き、そして死ぬ。なんて私は幸せなのだろう。


色々な景色を見てきた。娘や娘婿、孫たちの挑戦や努力を見届けてきた。陽向に貰ったものを私は渡すことが出来ただろうか。


思いやりは連鎖する。それならきっと、優しさも連鎖するはずだ。陽向から貰った優しさを、私はきっと次の世代に渡せたはずだ。



「おばあちゃん、死んじゃうの……?」



1番下の、小学生の孫娘が私に問いかける。娘夫婦はアツアツで、上の子はもう成人もしている。



「そう……だねぇ。もうすぐ夫が迎えに来るかもねぇ」


「お母さん……」


「……大丈夫。私はずっと見守ってるよ」



夫と一緒に。


今、会いに行くからね。会えなかった時間の話をたくさんしよう。


ずっとずっと、愛してるよ、陽向。





────────────────────────



読んでくださりありがとうございます!


嘘コクから本気で好きになってしまった人と、嘘コクでもいいから好きな人と付き合いたかった人の、秘密を告白する話でした。


純愛です。純愛ですかね?


お互い愛し合ってる2人でも、過去にあったことが足を引っ張ってしまう。それを解決したいなら、お互いを思いやり、話し合わなければいけない。


そういった内容になりました!


一応ハピエンな気がします。



面白い、共感できたと思っていただけたら、ぜひ評価・いいねなどよろしくお願いします!


読んでくださりありがとうございました! また別の作品でお会いしましょう!


他の作品も見てね〜!(宣伝)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ