幕間
優斎は今日も今日とて、寝台に上半身を預けていた。
「今日はね、反乱を企てた武士たちが捕らえられたんだ。誰にだと思う? それがね、伊織と時丸! 上官を、家族を捕まえることで実刑を免れるんだって。皇帝はすごく優しい人だと思わない?」
応えのない入道にその日の出来事を話しかけることが、優斎の日課になっていた。
妖たちのことも心配だからちょくちょく南都には戻っている。けれど、優斎一人ではあの屋敷はどうも広く感じてしまう。
「詳細を詰めて、落ち着いたら戴冠式を仕切り直すんだって。俺と伊織、時丸の。だから菊花が仲間外れだーって拗ねてるんだよ」
やがて、優斎の語り声は寝息へと変わっていく。
日はとっくに沈み落ち、部屋に月明かりと涼風が入り込む。それは寝入る優斎に影をかけ、儚げに揺れていた。
「優斎」
玉音が静かに響き、さらり、と赤い髪に指が通された。
「んん」
鬱陶しそうに、優斎が唸る。
「いり、みち」
「ああ。ここにいる」
「――っ」
がばっと優斎が勢いよく起き上がった。目を瞬かせてきょとんとする入道と目を見開いてあ然とする優斎。しばらく二人は、そうして見つめ合っていた。
「入道」
「ああ」
「入道。起きたの」
「起きたら悪いのか?」
短い言葉が交わされ、入道はため息をついた。
「安心しろ。力を使いすぎて、眠っていただけだ」
「俺、ちゃんとできたんだ。悪い武士たちも捕まって、それで」
「いい。毎夜のごとく報告しなくとも小生は全て知っている」
そっか、と優斎は安堵の笑みを浮かべ、欠伸を落とした。
「眠いのか?」
そう尋ねるや否や入道は寝台から降り、そこに優斎が乗るようにと指を動かした。
「早くしろ」
入道は優斎の首根っこを掴み、半ば強引に寝台へ乗せた。布団を被って横になる優斎の腹に入道が手を置く。
「なに、これ」
「寝ろ」
ぽんぽんと規則的な律動に、優斎の瞼は次第に重くなっていく。
久しぶりのまともな体勢だ、と優斎は伸びをした。
「なにを笑っている? 寝ろと言っただろ」
「寝るよ。寝るけど、懐かしいと思って」
「懐かしい?」
優斎は瞼を閉じたまま、小さく頷いた。
「お師匠に、よくこうして寝かしつけられたなって」
一瞬、入道の手が止まった。
「お師匠に拾われて、入道に出会えてよかった」
「そうか。小生はそんな昔のことはとうに忘れた。いや、記憶にもない」
「はいはい」
わざとらしく顔を逸らした入道に、優斎は満足そうに口元を綻ばせた。
そうして月明かりに仲良く照らされながら、小さく寝言を漏らす優斎をじっと見つめる入道もまた、慈愛が満ちるように微笑んでいた。




