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運星奇譚  作者: 綾呑
29/30

幕間

優斎は今日も今日とて、寝台に上半身を預けていた。


「今日はね、反乱を企てた武士たちが捕らえられたんだ。誰にだと思う? それがね、伊織と時丸! 上官を、家族を捕まえることで実刑を免れるんだって。皇帝はすごく優しい人だと思わない?」


 応えのない入道にその日の出来事を話しかけることが、優斎の日課になっていた。


 妖たちのことも心配だからちょくちょく南都には戻っている。けれど、優斎一人ではあの屋敷はどうも広く感じてしまう。


「詳細を詰めて、落ち着いたら戴冠式を仕切り直すんだって。俺と伊織、時丸の。だから菊花が仲間外れだーって拗ねてるんだよ」


 やがて、優斎の語り声は寝息へと変わっていく。


 日はとっくに沈み落ち、部屋に月明かりと涼風が入り込む。それは寝入る優斎に影をかけ、儚げに揺れていた。


「優斎」


 玉音が静かに響き、さらり、と赤い髪に指が通された。


「んん」


 鬱陶しそうに、優斎が唸る。


「いり、みち」

「ああ。ここにいる」

「――っ」


 がばっと優斎が勢いよく起き上がった。目を瞬かせてきょとんとする入道と目を見開いてあ然とする優斎。しばらく二人は、そうして見つめ合っていた。


「入道」

「ああ」

「入道。起きたの」

「起きたら悪いのか?」


 短い言葉が交わされ、入道はため息をついた。


「安心しろ。力を使いすぎて、眠っていただけだ」

「俺、ちゃんとできたんだ。悪い武士たちも捕まって、それで」

「いい。毎夜のごとく報告しなくとも小生は全て知っている」


 そっか、と優斎は安堵の笑みを浮かべ、欠伸を落とした。


「眠いのか?」


 そう尋ねるや否や入道は寝台から降り、そこに優斎が乗るようにと指を動かした。


「早くしろ」


 入道は優斎の首根っこを掴み、半ば強引に寝台へ乗せた。布団を被って横になる優斎の腹に入道が手を置く。


「なに、これ」

「寝ろ」


 ぽんぽんと規則的な律動に、優斎の瞼は次第に重くなっていく。


 久しぶりのまともな体勢だ、と優斎は伸びをした。


「なにを笑っている? 寝ろと言っただろ」

「寝るよ。寝るけど、懐かしいと思って」

「懐かしい?」


 優斎は瞼を閉じたまま、小さく頷いた。


「お師匠に、よくこうして寝かしつけられたなって」


 一瞬、入道の手が止まった。


「お師匠に拾われて、入道に出会えてよかった」

「そうか。小生はそんな昔のことはとうに忘れた。いや、記憶にもない」

「はいはい」


 わざとらしく顔を逸らした入道に、優斎は満足そうに口元を綻ばせた。


 そうして月明かりに仲良く照らされながら、小さく寝言を漏らす優斎をじっと見つめる入道もまた、慈愛が満ちるように微笑んでいた。

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