グミはわたしのもの
「うぉい!!!」
いかんいかん、自分以外を誰もいないものとして認識してて咄嗟にオッサンみたいなな声が出てしまった。
鼻も恥じらう乙女はこんな声は出さない。ちゃんと女の子としての自覚をもって!とどうでもいいことを考えながら振り向く。
そこには小さな手のひらサイズのおっさんが半裸でふよふよと浮いている。しかも某ジブリのト○ロに出てくる葉っぱを片手にこっちを見ている。
初めてみる生命体に負けじと、ジーとみつめるとおっさんは徐々にピンクに染まった。
あ、かわい。
あの世ってこんな生き物いるんだ。あの世だから生き物でもないか。
ずっと見ているわけにもいかないととりあえず意思疎通を図る。
「ここってあの世ですか?」あれ、あの世って日本語通じる?言った直後にそう思ったが、半裸のおっさんは相変わらず顔が赤いまま何も答えない。
日本語通じないのかな。やはりあの世にはあの世ならではのコミュニケーションの取り方があるのだろうか。
目の前のちっちゃいオッサンはただ見てくるだけで害もなさそうだ。でもここでまた1人になるのも怖い。
少しでもこちらを好意的に思ってくれるようにしないと。
「うーん」首を傾げて周りを見るとさっきまでは気が動転してて見つからなかったのか、玄関にかけてあるはずのお出かけ用のポーチが落ちている。
あれ、あの世って現世のもの持ち込みいけるんだ。あの世ってすごいな。
中を確認すると、グミと財布とリップが入ってる。グミって食べられるのか?とあの世の概念がおかしくなっていることに気づかないふりをしながら、グミを取り出す。ブドウの形をしたグミを食べようとするとさらに視線を感じる。そう、おっさんだ。心なしか目がさっきよりキラキラしている。
このおっさんがこれから私の役にたってくれるならあげようと思わなくないなどと上から目線で考えているが、死の世界でも衣食住が必要ならグミしか私の食糧はないことになる。そもそもこのおっさんにあげる義理なども持ち合わせていないのである。
いくらおっさんが可愛くても命には変えられない。すまんな、おっさん。心の中で合唱しながらグミも貴重な食糧として鞄になおす。
鞄に仕舞われたグミを名残惜しそうに見るおっさんから隠すように鞄を肩にかける。
「ごめんだけど、あげないから」通じているかわからない相手にそう言い訳めいた言葉をかけた。
「てか、死神とか道を教えてれる人はいないわけ?」あの世のくせに対応遅くない。死んだら、桃源郷で遊びくらすなり、新しく輪廻を回って人生を生きるなり、色々あるはずなのにこれどういう状況だ。
ずっと1人(小さいおっさん付き)でいたら気がくるう。
とりあえず、前に進もう。そしたら、町なり何なりが見えてくるはず。後ろには、おっさんがふわふわ浮きながらついてくる。
「あんた、何も言わずについてくるとか、その気質はもはやストーカーだよ」
通じていないだろうに、オッサンは、首をかしげるような動きをしながらもついてくる。
会話とは言えない一方的な独り言を呟いながら全く変わり映えしない、景色を進んでいく。