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単身赴任中のビジネスマン

作者: 霧ヶ原 悠

 


 左右から覆いかぶさるように草木が伸びていた。


 その合間を縫うように淡々と電車は走っていく。景色も何もあったもんじゃない。


 ただ、夜空だけが少しずつ近くなっていくから、上へ上へ向かっているのだろうと分かるばかりだ。


 ゴトンゴトン。


 電車は一本だけの線路をゆっくり、忠実になぞって走る。


 乗客は僕を含めて十人ほど。誰も何も話さない。じっと緑の道を眺めている。


 ボーッと汽笛のような音がした。ポーッだったかもしれない。


  イシューカラーギ〜イシューカラーギ〜。


 エコーがかかったような、微妙に聞き取りづらい声で車内放送が流れた。


 老紳士が一人降りていった。


 季節外れな麦わら帽子が、なんとなく似合っていた。


 電車はまた動き出した。


 ガッタンゴットン。


 長い緩やかなカーブが終わりにさしかかったとき、線路をまたいで架かる大きな橋が見えた。


  アーイーモーナロ〜アーイーモーナロ〜


 さっきから不思議な名前の駅だ。どういう意味なのか、いまさら気になってきた。


 ここではカップルが二組降りていった。どちらも首から大きなレンズのレトロなカメラを下げていた。


 あの橋からは、さぞ素敵な眺めが見えるのだろう。


 電車が動き出す。


 ガターンゴトーン。ガターンゴトーン。


 流れていく車窓の景色は、変わらず緑色だった。


 ボーッと汽笛のような音がした。ポーッだったかもしれない。


  本日ハ星月夜山麓鉄道ヲゴ利用イタダキマシテアリガトウゴザイマシタ。


  終点イーカラーギッシュ〜イーカラーギッシュ〜。


  銀河流星鉄道ヘノオ乗リ換エハ扉ヲクグッテ星屑回廊ヲα方面ヘオ越コシクダサイ。


  本日ハ星月夜山麓鉄道ヲゴ利用イタダキマシテアリガトウゴザイマシタ......


 駅は大勢の利用者でごった返していた。スーツケースを脇に置いたまま、僕はしばらくその様子に見惚れていた。


 空から流れ星が降りてきては、見た目も様々な利用者を次々と乗せて、また光の速さで空へ飛んでいく。


 何十、何百というホームで、途切れることなく繰り返されるその光景は、機械的ながらとても神秘的で、美しかった。


 さて、僕は手元のチケットに目を落とした。


  地球行キノ流レ星ハ1000分ノ56番線カラ発車シマス


 久しぶりの帰郷だ。


 浮つく気持ちを抑え、僕は覚悟を決めて人混みへと足を踏み出した。



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