(5) 剣士デビューへの道
早速、実戦となりました。だけど、これでいいのか。戦闘という事で用意されたブーツとパンツに上着という服装。そして、肩から掛けた簡易鞄に短剣。都の兵士を思い出す。
本当に戦うんだと思っただけで、アンジェラは不安が押さえられない。付き添ってくれるアグアニエベに訴えてみた。
「あの、私は剣を使った事なんて無いのです。無理ですわ!」
「大丈夫ですよ、魔力を与えてますから。」
そう言われても、魔力は目に見えない。私は魔力ですよとか言いません。自分には何の変化も有りませんから。
「あの、やっぱり、ダンジョンに挑戦なんて無理ですわ!」
「ほら、ギルドに着きました。知り合いを呼んでおきました。彼に任せていれば、心配はありません。」
知り合い?彼?いつの間にか到着した町のギルドの前。何だか、人だかりがしてますけど。若い娘ばかりで。何なのでしょう。
アグアニエベはスタスタと歩み寄る。美男子の登場に娘達は、歓声を上げた。
「やあ、皆さん。失礼しますよ。エド、来てくれて有り難うございます。」
人だかりの中から出て来たのは、これまた、すこぶる騎士服の美男子。肩に流した長い金髪に青い瞳。甘いマスクに浮かぶ微笑みに吸い込まれそうだ。
「アグアニエベさん、僕が頼み事をする時はお願いします。貸しですからね。」
長身の長い脚で大股に歩むとアンジェラの側まで来た。
「やあ、君がアンジェラだね。僕は、エドワード・フォスター。僕が付き添うから安心して。」
まるで、以前から顔見知りのようにフレンドリーな男子。アンジェラは頬を赤らめながら、挨拶を返した。
ざわめく、ざわめく。挨拶をしただけなのに。アンジェラに視線が突き刺さる。妬み、嫉みが吹き出していた。
「なあに、あのオバサン!」
「私たちの王子様を狙ってんじゃないのー!」
聞こえてます、オバサンは酷い。正体を隠す為にアグアニエベが20代の女性に変えてはいますが。そんなに、老けて見えるのか。気になって仕方ない。
だが、貴族の令嬢として身に付いている気位の高さで無視する。
「ちょっと、ネズミのくせにエド様に馴れ馴れしくしないでよ!」
立ち去らない娘達は、嫉妬丸出し。怖い怖い、話してるだけなのに。アンジェラの容姿は目立たない栗色の髪に栗色の瞳。背も高くて男性ぽいけど。ネズミとは、見下されているのかも。
そんな空気の中なのに、エドワードは笑顔を振り撒く。
「みんな、またね。会えて嬉しかったよー。」
娘たちのハートをロックオン。ハートの浮いた目で懸命に手を振る。アグアニエベはアンジェラに耳打ちした。
「気にしないで下さい。あの子達は、エドワードの私設ファンクラブのメンバーなんです。追っかけですよ。」
「追っかけ?」
「ええ、あちこちの町に有ります。色んな町のギルドに行くから人気者になってるようで。ファンサービスが好きなのもありますけど。」
「ファンサービス?」
アンジェラは、思った。これは、ただの遊び人なのでは。こういう男は、恋を楽しんでいる。貴族には、多い種類です。
そして、アンジェラはダンジョンの入会手続きをする。アグアニエベは、エドワードにアンジェラを託して帰った。
エドワードに教えてもらいながら窓口で申し込みをする。
「アンジェラ・ラペス、22歳。ギルド登録経験なし。これで、間違いないですね。」
登録手続き料金を払って少しの時間が立った後に初心者のカードを渡された。エドワードが、誘う。
「さあ、行こう。アンジェラのダンジョンデビューだよ。」
2人は、ダンジョンの入り口へと向かう。初心者向けの1層とはいえ、何も知らないアンジェラにはドキドキものだ。エドワードは、左手を出す。
「愛刀、ファントム!」
湧いて出たように、彼の左手に剣が出現。呼び出したのだ。彼は召喚魔法が使えるらしい。
「デビューの記念に、君にファントムをプレゼントする。魔力は入ってないし、聖剣でも無いから使いやすいやすいよ。」
手渡された剣は、ズシリと重い。アンジェラには両手で持たないと耐えられない。やっぱり、駄目よと諦めると、声が聴こえてくる。
『剣術スキル発動しますー!』
え、何?と思ってると、手が勝手に動き出す。剣を握って振り回すのだ。重いはずの剣がスプーンくらいに軽い。エドワードが肩をすくめた。
「おやおや、アンジェラは僕より剣が使えそうだ。今日は、僕が負けるかも。泣いちゃうよ。ハハハハー。」
そんな事、あるわけない。付き合って、アンジェラも作り笑い。
心臓は、バクバク。足に力が入らない。実家では教育の中に剣術もあったけど、向いてないと外された過去もある。剣が扱えなくて反対に怪我をしますと。散々な思い出だった。
剣術の教師に見捨てられたのに、上手くやれるのか。処刑台よりは、ましだけど。震えながらエドワードに連れられてダンジョンの入り口へ入った。