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Back Drop  作者: 端花 東霞
2/2

#2 優しさと驚愕

4/12 23:46宮城県仙台市 堀籠宅 2F アユムの部屋


 気が付くとアユムは自分の部屋に寝ていた。見慣れた天井を眺めながら、先程の悪夢のような鈍痛を思い出した。アユムが身体を起こそうとするが、全身に激痛が走り微塵とも動かせそうになかった。その時、部屋の扉が開いた。母がご飯を持ってきたようだ。


「大丈夫?転んだって聞いたわよ。」

「え?」

「知らないお兄さんが運んできてくれたのよ。その人、お医者さんで診てくれたそうよ。今日は安静にしなさいって。」

「え…?」

「ちゃんと休むのよ。」


 アユムの反応など気にすることもなく、母はそそくさと部屋を出ていった。母の話からすれば、誰かに助けられたようだった。その時アユムは、意識の端にある白髪の若い男を思い出した。もしかすると、彼が助けてくれたのだろうか。

 起きている出来事を推察しながら、アユムは何気なく窓の外を眺めた。窓の外には、夜更けの景色が映っているはずだった。しかしそこに、いつもと違うものがひとつあった。オレンジ色の髪をした柔らかな笑顔を浮かべる男がそこにいたのだ。


「はぁぁぁぁ!?!?!?」


 アユムは素っ頓狂な声を漏らして驚いてしまった。さらにその拍子に身体に変な力を入れてしまい、全身に電撃が走った。


「んぐっっ!!!!」


 衝撃のダブルパンチを食らってしまったアユムは、とにかく冷静になることに努めた。驚きばかりが襲ってきていたために、冷静になるまでそう時間もかからなかった。冷静になって考えると、自分の部屋は2階であること。つまり、窓の外の男はその高さにいることを理解した。と同時に、その男が何故そこにいるのか。2つの意味で分からなかった。

 アユムは、男が何かを伝えようとしていることに気が付いた。小さな声で話しているのだろうか。窓ガラス越しでは、何を言っているのかわからなかった。辛うじて口パクを読み取ってみようとすると「あ・け・て」と言っているようだった。


「こちとら身体が痛くて動けないんだけど…。」


 アユムが寝ているベッドから男がいる窓を開けるには、起き上がらなければいけなかった。全身が痛むアユムにそれは難しかった。


「あ…。」


 アユムの言葉が聞こえたのか、男も口をぽっかり開けて固まっていた。すると男は、何やら道具を取り出したかと思うと、窓の鍵がある部分に穴をあけていた。もう誰が何を言おうと空き巣のそれだった。


「おい、これ大丈夫な奴?」


 アユムがそう声をこぼしたとき、窓の鍵を開けた男が部屋に入っていた。男はアユムと同じか少し高いくらいの身長で、黒いスウェットパーカーのような服を着ていた。顔はパッチリ二重の見た感じ同い年くらいに感じる若さがあった。


「ごめんごめん、割と重症だって聞いたの忘れてた。」

「泥棒?」

「違う違う!!泥棒が部屋に入れてなんて頼まないでしょ!!」


 それもそうかとアユムは納得してしまっていた。もう非日常的なことはお腹いっぱいだった。


「怪我ひどそうだね。」

「動けそうにないですからね。」

「だよねぇ~。」

「ていうか、誰?」


 男はしまったというような顔で驚くと、自己紹介を始めた。


「僕はナムっていうんだ。」

「南無?」

「まあ、そう思うよね(笑)」


 男はその反応されるの毎回だからといったような笑みを見せた。まるで慣れてますといった感じで話し始めた。


「何があったか覚えてる?」


 男はアユムにそう聞いた。アユムは覚えている限りのことを話した。ヤンキーに絡まれたこと。白いパーカーの男のこと。そこに現れた白髪の男のこと。そこで感じた昼休みと同じ影のような感覚のこと。男はその話を親身になって聞いてくれたあと、優しくも明るいその声で話し始めた。


「君が見たその白いパーカーの男は、スマイリーという集団に所属する『ネーム』だね。」

「スマイリー?ネーム?」

「『ネーム』っていうのは、特殊能力者だと思ってもらえればいいかな。白パーカーが逃げる時に、樹木が生えてきたって言ったね。つまり、白パーカーは樹木を操る特殊能力を持った『ネーム』っていうことになるね。」


アユムは特殊能力を使うなんて非現実的すぎる話をされているはずだったが、目の前で起きたことを全て引っ掛かりなく飲み込むには都合の良すぎる話だった為にすんなり受け入れてしまっていた。


「で、スマイリーっていうのがその『ネーム』の中でも一般社会に危害を加えることを目的にしてるやつが集まってる犯罪結社って感じに思ってもらえればいいかな。」

「そうだったんですね。」

「意外と飲み込み早いね。」

「あんなことがあったんですから、嫌でも信じますよ。」


 そう答えたアユムだったが、やはり今さっき起きたことを完全に鵜呑みにすることなんて、できるわけもなく、少し引っ掛かりは残していた。


「そのスマイリーはなんでそんなことを?」

「それが分かったら、僕達も苦労しないよぉ。」


アユムは、「僕達」という言葉が気になった。他にも仲間がいるのだろうか。そもそも、ナムさんは何者なのか。


「ナムさんも、その、ネーム?なんですか?」

「そうだよ。」


 しれっと凄い事をカミングアウトされた。ただでさえ今もネームのことを知ったばかりなのに、目の前の優しいこの人も、所謂能力者なのかと思うと不思議な感覚だった。すると、アユムの視界が突如として真っ暗になった。今この瞬間まで自分の部屋にいたはずなのに。気づけば音もしなくなっていた。何もない真っ白な空間にいた。

 すると、目の前に黒い服を身に纏った集団が現れた。アユムは少々身構えたが、その集団からは敵意などは感じられなかった。


「これが僕の仲間達だよ。」


 どこからかナムさんの声が聞こえた。すると、その集団の中に現れた。


「僕の能力は『共鳴』(レゾナンス)。ありとあらゆる情報を対象と共有できる。半ば強制的にね。これは、僕の脳内を君に見せている状態だよ。ネームの能力は使用者の身体能力や体力で効果の大きさも変わる。万能ではないが、その分鍛えれば鍛えただけの相応の力を発揮出来るってワケ。」


 アユムは初めて直接的に能力に触れていた。目の前のこの光景が現実とも受け取りがたかったが、それよりも心の隅に少し生まれていた好奇心が徐々に大きくなっていた。


「すげえ。」

「ありがとっ。そしてこれが『Goat』(ゴート)。秘密裏にスマイリーから社会を守ってる。」

「秘密裏に?」

「そもそもネームたちのことを知らなかったでしょ。ネームは社会に隠れて生きなきゃいけない。能力がある分、怖がらせちゃう。直接的に危害を加えかねない能力者を、何も持ってない人は排除したがるだろうからね。だからこそ、一般社会に危害を加えるスマイリーを止めなきゃいけないってワケ。」

「そうだったんですね。」

「一般社会にバレないように戦う、スパイとか忍者みたいな影の者みたいなイメージかな。」


 アユムはその言葉にもやもやが少し無くなっていた。おそらくお昼や先程に感じた感覚はこれだったのではないかと思っていた。そのことをナムに尋ねた。


「それじゃ、さっき話した影の感覚ってもしかして。」

「うん、僕の仲間だね。君を助けたやつだ。」

「ナムさんじゃないんですか!?」

「僕じゃないよ、彼だ。」


すると、集団の中の一人の顔が見えた。白銀のぼさぼさとした髪、顔立ちははっきりしているが、肌は驚くほど白かった。何より感情や表情があまり感じられなかった。


「彼はシズ。僕らのリーダーだよ。ちょっと表情とか感情が薄いけどね。君を助けた時も、野良猫を抓むかのように『持ってきた』から困ったよ。」


 そのぼさっとした人からは確かに人を慈しむような感じはしなかった。さらに言えば、人間が嫌いなんじゃないかって思うくらいだ。その男の目は冷たかった。

 アユムは、そんなことを思っている時、ふとあることが気になった。


「ナムさん、ネームは社会に隠れて生きてるんですよね。それなのに、それを僕に言ってもいいんですか??」

「うん。だって君もネームだよ。自覚無いみたいだけど。」


「…え!?」


「ネームは、身体能力が通常時でも普通の人間より底上げされてる。それにタコ殴りにされて生きてるんだもの。それに、僕の能力内でこれだけ会話できるのはネームだけだよ。」


 アユムはこれまで辛うじて理解をしていた(しようとしていた)が、ついに思考が止まった。


「僕がネーム??」


「うん。補足するとね、ネームは14歳で能力に目覚めるんだ。言っちゃえば、中二病を一生患ってるもんだと思ってね。」


「中二病!?」


「しかも、君はそれにこの歳まで気づいてなかったってことだからね。」


 そう言われると、アユムは急に恥ずかしくもなった。だが、自分がネームだと言われ激しく驚いたが、同時に好奇心は最大値まで登っていた。


どうも、とーかです。2話もご覧いただきありがとうございます。2020年の大みそかに投稿しました。やっとお話の核心に触れる部分書きました。ここからさらに頑張って書かないとって思います。2021年もよろしくお願いします。

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