1-8 最初で最後のランク戦
最後に出れて、本当に良かった。
今日はやたらと目覚めが良かった。
多分、俺の中で整理がついているからなのだろう。
未練などなく、今日の最後のランク戦に挑めるという気持ちが。
ランク戦は一日をかけ行われる、大規模なイベントである。
参加者数は、絞るといっても、魔法種と剣種に関しては予選が行われるほど。
そして予選が行われる都合上。銃種のランク戦が一番初めになる。
ランク戦の合間に、予選が行われているのだろう。
興味がないせいで、見たことがなかった俺には正解はわからない。
さくっとログインを済ませ、ランク戦が開催されるコロシアムへと移動する。
「YUJIさん。」
コロシアムに着く頃、後ろから声がかかる。
「来ましたね、YUJIさんの最初で最後のランク戦が。」
やる気が上がるような言い方をしてくれる。
本当にいい人だ。
「そうだな。うん、最後だ。」
噛みしめる様に、こみ上げる何かに負けないよう、そう言葉にする。
「はは、YUJIさんあのキャラ辞めたんですね、そっちの方が良いですよ。」
「辞めたとか言うな、最後くらい面倒を辞めただけだ。」
「はは。」
「てか、あのキャラはお前のせいだろ。」
他愛のない会話。
ただ多分これが初めての、本当の会話だと思った。
「まぁいいや、ゲットしてきたんだろ、ちゃんと。」
REIは昨日言っていた。
3%のドロップを狙うと。
参加資格を獲得すると。
「もちろんです。」
またイケメン笑顔に加え、親指を突き立てる。
相変わらず、様になるな。
「なら、最後の講義だな。」
「そうですね、最後くらい、ちゃんとあがいて見せますよ。」
それ以上言葉はいらない。
そんな気がしたから、俺は歩き出す。
それに合わせる様にREIも歩き出す。
あぁ、もうちょい早くこうすれば良かったかな、なんて感慨深くなる。
銃種のランク戦の参加者はたったの4人だった。
俺とREI、それと後二人。
準決勝と決勝だけのランク戦。
合計3試合しかないランク戦は約30分で終わった。
準決勝自体は数分で終了し、迎えた決勝。
俺はREIと向き合っていた。
そしてそこから20分。
REIに教えた銃種の攻撃パターンを全て避けきり、耐えた。
普段観客ほとんどいない観客も、今日ばかりは多かった。
上位ランカーYUJIを見るため、またその戦いぶりを見るため。
そして沸きに沸いた。
数千と浴びせられる銃弾を、絶え間なく浴びせられる銃弾を、俺は実に20分間回避し続けて見せた。
銃種の可能性を残したい。
少しでも増えてくれれば、なんて浅ましい感情もあったかもしれない。
しかし多分、俺を支配したのは、REIに見せつけたかった。
俺の今までを、見てほしかった。
そこから何かを受け取ってほしかった。
唯一、銃種に興味を持ち、俺に話しかけた、俺の唯一のフレンドに。
終わりは実にあっけなかった。
カチ、カチ。
リボルバーが空転する。
それは弾切れを意味し、それ以上の攻撃手段がないことを教える。
その瞬間、鐘が鳴り響き、終わりを告げる。
「予想以上だったぞ。」
肩で息をするREIに、俺はそう声をかける。
「弾切れって、一番恥ずかしい奴じゃないですか。凄すぎますよ。」
「悪いな。ついつい興がのっちゃって。」
「興がのっただけで、20分回避し続けられるんですか。全く化け物ですね。」
「誉め言葉として受け取っとくわ。」
心地よい掛け合い。
俺は自然と手を差し出す。
REIも応えるように手を取る。
「YUJIさん。」
今までありがとうございました。
今までで一番の笑顔を見た気がした。
全くリアル過ぎんだよ、このゲーム。
次回は6月4日18時更新予定。
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