1-7 最後通告
ん~、ちゃんと書けてるか不安になってきた。
通告ってのは基本的に嫌なことが多いと思う。
「YUJIさん、聞いてますか?」
ふと気づくとREIが目の前まで迫っていた。
「すみません、少しぼぉーとしてたっす。」
思い出していた。
このゲームを始めたころのことを。
決して自分の力ではない。
腕に染み付いたまま外すことが出来なくなった腕輪をちらりと見る。
「そういえば、明日のランク戦出るんですか?」
気にしてないとばかりに話題を変えるREI。
「ランク戦か。そんな時期だっけ。」
ついキャラを忘れ、素に戻ってしまった。
「そうですよ。確かに銃種の参加者はいつも少ないですけど。」
「そっすね。一応参加するっすよ。」
頑張ってキャラを戻し、話を続ける。
REIと出会ったのは半年前、それ時についつい作ってしまったキャラ。
部活の後輩をイメージした話し言葉はふとした時に崩れてしまうが、今日までずっと続けてきた。
「本当ですか?なら僕も今回は参加しますよ。これからダンジョンにこもってドロップを狙いますよ。」
あぁ、そうか。
REIはまだ初期武器のままだったっけ。
そんなことを心で思いながら、はつらつとした笑顔を見せるREIを見る。
だからなんでこんなにリアルなんだよ。
さらに心でつぶやく。
ランク戦。
各武器種ごとのランキングを争う、PVPだ。
ワールドランキングは期間ごとのクエストポイント、ダンジョン周回時に獲得できるポイントを争う。
期間は毎回1か月。
俺は半年前にランクインしてからずっと上位を維持している。
チートアイテムの効果がばれないように、怪しまれないよう適度に手を抜きながら。
逆にいかに手を抜くか、という本来のゲームとはかけ離れたプレイスタイルに、俺は没頭したのだ。
話を戻そう。
そうランク戦。
出る必要は基本的にない。
上位入賞者に与えられるアイテムは貴重だが、ただそれだけ。
あとはゲーム内で認められる、くらいなものだ。
定期的に行われ、プレイ人口の多い魔法種なんかはライバル関係なんかがあったりと面白い要素もあるのだが、俺自身は全く興味もなかった。
また俺の能力が露呈するわけにもいかないので、これまで一度も参加したことはない。
ランク戦は、多くのプレイヤーが観戦することが出来る。
銃種は人気がないとはいえ、やはり観戦者はいる。
なにより、上位ランカーの俺が参加することは、他の上位ランカーからすれば注目の的だ。
YUJIとはどういうやつだ。
どんなプレイスタイルなんだ、と。
そういった事情もあり、俺はこれまで参加を控えていた。
「どうしたんですか。あぁ、すみません、YUJIさんが参加されると聞いて少しテンションが上がってしまいました。」
俺の返答がないことを、気分を害したと判断し、REIはそんな風に言う。
「いや、違うっすよ。少し考え事してただけっすから。」
きちんと否定する。
そう違う。
そしてまた考え込む。
目の前のキャラはただ動かなくなるだけ。
ただそれだけなのに、REIはまた何かを読み取るように話す。
「何か悩み事ですか?聞きますよ、YUJIさんにはお世話になってますからね。」
胸を叩き、任せてくださいとばかりの表情を作る。
見慣れたリアルすぎる光景に、小さくため息を吐く。
よし。
「REIさん。ランク戦が終わったら、僕を引き継いでください。」
作った話し方ではなく、素のままの言葉で話す。
「武器とアイテムを全て。それを引き継いでください。」
「もしかして辞めるんですか?」
REIは察しが良すぎる。
だから茶々もはさまず、一言だけ言う。
「わかりました。」
かっこよすぎるほど真剣な眼差しで、REIは俺を見つめる。
「YUJIさんの全てを受け継ぎます。」
俺はつい顔が綻んだ。
「ありがとう。んじゃ、また明日。」
「えぇ、また明日。」
唯一といっていい、ゲーム内での友人の好意に感謝する。
そんな気持ちに包まれながら、俺はゲームをログアウトする。
現実に戻る。
そして机に置いたスマホに目を落とす。
『不在着信 24件』
『受信メール 18件』
「やっぱ、ばれたか。まぁ予想以上に長かったけどね。」
一通メールを開く。
そこには親からの最後通告が長々と書かれていた。
本来通うはずであった予備校には通わず、受験するはずの試験にもいかず。
むしろよくここまで隠し通せたと思う。
それらが全てばれた。
明後日連れ戻しに来るという内容のメールを受信したのは今朝の事。
最後なんだと、GSMオンラインに足を運んだ。
集会場でぼーっとしていたらREIと話せた。
多分やり切った。
あとはREIが受け継いでくれる。
だから明日でちゃんと終われる。
そう思い、俺は目をつぶった。
次回は5月31日18時更新予定。
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