表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
持たざる勇者と英雄の物語(仮)  作者: 神崎 秋斗
1章 GSMオンライン
4/20

1-4 悪意の祝福

夢なら覚めないでって、思ったときには起きています。



「コングラチュレーション!!」

そんな音声と共に意識を取り戻す。

それがゲームのSEである事に気づくまで、それほど時間を要さなかった。

画面上に映る、色鮮やかなおめでとうの英字。

その下に表示されるリザルトの文字。

『ダンジョン~始~ クリア報酬』と書かれ、多くのアイテムを獲得していた。

「戻った?のか。」

ゲームの世界から急激に意識を取り戻す。

PCの駆動音と、少し離れたところにある冷蔵庫の駆動音が聞こえる。

それほどに静寂が、この場を支配していた。

汗を大量にかき、気持ち悪さもあったはずだが、妙な安心感がある。

ゆっくり首を振り、自分の場所を確認する。

確認するまでもなく自分の部屋、安アパートの1室なのだが、それでも確認せずにはいられなかった。

先ほどまでいた場所。

自分に向けられていた圧。

あれが嘘だったのか、真だったのか。

言い聞かすように確認する。

「俺の、部屋だ。

 間違いようもなく。」

椅子の背もたれに体を預け、大きく息を吐く。

ただゲームをしていたはずだった。

友人に勧められ、少し気晴らしのはずだった。

そうだったはずなのに・・・。

「さっきのあれはなんだった、んだ。」

確認するように言葉にする。

夢だったのではないか。

なら、どこからが?

いつからが夢だったのか。

しかしこの体の震えはなんだ。

植え付けられた恐怖は、今なお俺の体を支配していた。

汗が止まらない。

手も足も震えが止まらない。

それを落ち着かせるように何度も何度も息を吐く。

高鳴る心臓の音がうるさい。

先ほどまで聞こえていたはずの、PCと冷蔵庫から流れる駆動音は、もう聞こえていない。

落ち着け。

ここは俺の家。

何もない。

いつもの俺の家。

落ち着け。


どれほどそうしていただろうか。

荒かった呼吸は落ち着きをみせ、あれだけうるさかった心音も聞こえなくなった。

汗が湿るシャツが気持ち悪いと思えるほど、自分を取り戻していった。

 パシッ!

 勢いよく頬を叩く。

 両手で自分の頬を。

 「しっかりしろぃ。

  ただのゲームになんてざまだ。」

 戻りつつあった平静に対し、更に喝を入れ自らを鼓舞する。

 「何はともあれ、クエストクリアだ。

  報酬貰って、次は裏ボスだな。」

 あれだけのことをなかった事のように、目の前の事実に切り替える。

 画面上に映る、リザルト表示に視線を戻し、改めて内容を確認する。

 友人様メモによれば、最初のクエストは銃種にとってはあまり良い物はもらえない。

 しかし、後々必要となる必須アイテムが多いとの事。

 「え~っと。

  タウロスの肝ってアイテムがあれば周回しなくて済むっぽいんだけ、ど・・・?」

 リザルト表示を見て、俺は目を疑った。

 初見ではあるが、恐らくおかしなものを見つけたのだから。

 『シークレットエキストラボーナス 無間の腕輪』

 通常獲得アイテム欄の下に、そう表示されていた。

 後々、様々なサイトや掲示板で確認することになるのだが、『GSMオンライン』では見たことがない表示であった。

 「報酬・・・。

  えっ?!」

 俺は怖くなった。

 先ほどまで忘れようとしていたあれが、『それ』が存在していたと。

 あの事象が、幻ではなかったと、この文言が主張していた。

 「まじか。

  嘘だろ、おい。」

 震える右手を必死で動かし、マウスカーソルを合わせる。

 生唾を飲み込み、覚悟を決める。

 恐怖感を忘れたわけではないが、それと同時に高揚感もあった。

 あんなイベントで獲得できるアイテムはなんだろう。

 あんな思いをして手に入れたアイテムはなんだろう。

 思考は既に、あれはリアルなイベントであったと処理していた。

 カチ。

 クリックする音が響く。

 新たなウインドウが立ち上がり、アイテムの説明欄が表示される。

 

『無間の腕輪 装備アイテム

  アイテムの所持数・キャラのステータスを上限なく開放する。

  ***************。』

 一部が読めない。

 恐らく、何かの条件で解放される能力なのか?

 いやしかし、上限なく開放?

 どういうことなんだろうか。

 無限になるってことか?

 基本的にアイテムの所持数やステータスには上限がある。

 もちろん『GSMオンライン』でも例外ではない。

 基本アイテムは全て99個しか持てないし、銃種の銃弾も武器毎に異なるが、それでも上限がある。

 むしろ上限があるからこそ、銃種の人気が低迷するわけだが。

 「なんだこれ。

  ぶっこわれ能力じゃねーか。」

 そう、上限があるからゲームとして成立する。

 その上限をなくすアイテムなんて聞いたことがない。

 もともとの上限値が低く設定されており、それをさらに超える限界値に移行する限界突破のような仕様なら納得なのだが。

 これはそれとも違い、『上限なく』突破するという。

 ゲームに精通していなくても、ヤバさは理解できた。

 「ん?」

 ウインドウに続きがある事に気づきスクロールする。

 そしてそこに書かれた文言に、俺は体を震わせた。

 『概要

  無に支配されし悪意からの祝福。』

 そう確実に『それ』からの報酬である事が記されていた。



次回は、5月22日18時更新予定

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ