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持たざる勇者と英雄の物語(仮)  作者: 神崎 秋斗
1章 GSMオンライン
2/20

1-2 始まりのダンジョンクエスト

良かった。

ちゃんと続きが書けました。



「くっ。」

俺は吹き飛んでいた。



 リアルの友人に誘われ始めた『GSMオンライン』。

 アバター設定・初期装備選択・各種チュートリアルを終え、意気揚々と最初のクエスト『ダンジョン~始~』にやってきていた。

 両手に装備した銃は、完全にロマン武器だと思っていた。

 無限に撃つことが出来るこの武器を手に、ガンガンダンジョンを攻略していった。

 出てくるモンスターは弱い上に、銃種の初期武器の強さも相まって、レベルは8まで上昇した。

 ちなみにこのクエストの適正レベルは5だ。

 「ひゃっほ~い。」

 銃種の補正により、他の武器種よりも上昇しやすい俊敏性により、ダンジョンを行ったり来たり、その間に出会うモンスターを手あたり次第狩っていった。

 「雑魚しかいねぇ~のか~~。」

 始めて味わうゲームでの高揚感に包まれ、一撃で消滅していく雑魚モンスターにテンション爆上げになっていった。

 少しずつ早くなる操作に苦労しつつも、それを凌駕する楽しさにのめり込み、気づけばダンジョンの最深部に足を踏み入れていた。


 「あれ?」

 ふと気づく違和感。

 先ほどまでうっとおしいほど沸いていたモンスターが鳴りを潜め、急激に温度が下がる感覚を味わう。

 いや、画面上のことなので、実際にはおかしくね?程度の感覚だったと思う。

 巷ではやっているダイブ型のMMORPGとは違い、旧世代のネットゲームではあるが、それでも技術的には進化しているのだろう、没入感が違うんだよって友人も熱弁していた。


 「ボスフロアまで来ちゃったのかな。」

 ダンジョンの最奥はボスがいる部屋だということは事前に知っていたので、あまり驚きはなかったが、思った以上の進み具合に感心する。

 「え~っと、最初のボスは・・・っと。」

 キーボード横に置いた、友人からの『序盤攻略メモ』をチラ見する。

 友人様からの優しさにより作成されたそれは、パソコンで清書され印刷された綺麗なものだった。

 「とりあえず、回避重視。

  振り降ろしの後のスキが大きいから?そこを狙う?

  まぁやってみりゃわかるでしょ。」

 ダンジョンボス『タウロス』について色々明記されているそれを読む。

 友人様メモによれば、一回の攻撃が連続攻撃となっているので、基本は回避する。

 連続攻撃の最後は、上段からの斧振り降ろし攻撃があり、地面に斧がめり込むため、一時的にスキが出来るという。

 そこで通常攻撃を5回、回避、振り降ろし、通常攻撃、これをひたすら繰り返せばクリア出来るという。

 確かに最初のダンジョンだからな。

 あまり難易度が高くない感じも伝わり、安直に挑戦を決意する。


 道を少し進むと少し開けたところに出た。

 広!っと思ったが、その感慨にふける前にそれは起きた。

 今まで通ってきた来た道は半透明のバリアによって塞がれるとともに、目の前に大きな塊が落ちてきた。

 ドーンっという大きい音に、無意識に体が反応し、机の上に置いてあったペットボトルに手が当たり飛んで行く。

 そんなことを気にする間もなく、画面上では美麗なムービーが再生される。

 二足歩行の牛に斧を持たせたそれは、予想以上に大きく、自身のキャラと比較しても2倍程のサイズがある。

 斧を華麗に振り回し、大きな咆哮を最後にムービーが終了する。


 操作が可能になり、俺は速攻駆け出した。

 友人様のメモに従い、まずは回避優先。

 スキを見て攻撃するため距離をとる。

 一定の距離を保ちつつ、タウロスを中心に円を描くように移動する。

 キャラ作成時からは考えられないほど速くなった速度に感激しつつ、相手の行動を観察する。

 俺の向きを合わせながら、振り上げ、袈裟切りを繰り返しながら、距離を詰めようと攻撃を繰り返すタウロス。

 少しずつ距離を詰められ、近い!っと感じた時、その瞬間が訪れた。

 両手で斧を持ち直し、体を反る勢いで振り上げ、そのまま振り下ろす。

 「やっべ!!」

 間一髪回避コマンドが間に合い、飛び込むように前転し回避する。

 親の仇でも討つように振り下ろされた斧は地面にめり込んでいた。

 意外と抜けないのか、体重をかけ抜こうとするタウロスは、友人メモの通り無防備だった。

 「ここだぁ~。」

 両手に持った銃をタウロスに向け、連射する。

 弱点である顔を目掛け、1発、2発、3発、4発、5発、6発、7はっつぅ?!

 夢中になったことを後悔する前に、殴られた。

 体力ゲージの4割削るその攻撃は、ただの腕の振り回しだった。

 やべぇ、やべぇ。

 焦る心を落ち着かせるように友人メモを思い出す。

 「攻撃は5発までは、必ず守らんといかんな。

  でも4割はやり過ぎだろぉ。

  あと2回でゲームオーバーだろぉ?」

 若干の理不尽に嘆きながらも、友人メモに従い行動を繰り返す。

 逃げる逃げる、避ける避ける。

 ただただ振り下ろし攻撃を待つ。

 振り降ろし攻撃をタイミングよく回避し、回数を守って攻撃する。


 「あ~、これは完全に作業だな・・・。」

 10回ほど繰り返したとき、俺はそう思った。

 仕方ないと感じつつも、物足りなさを抱く。

 敵の攻撃は完全にパターン化し、コマンドを的確に繰り返す。

 慣れれば片手でも出来そうだと感じてしまうほど、楽な作業である。

 しかし、それにしても長い。

 わかっていたが、初期武器の威力が弱いため、中々敵のHPを減らせない。

 途中、自然回復してんじゃね?などと思うほど、作業をただただ繰り返していた。

 そんな思考に余裕を持ち始めた時だった。

 タウロスの行動パターンに少し変化が現れたのは。

 それまでは確実に俺に対して振り回していた斧が、関係ないとばかりに辺り構わず振り回すようになった。

 回避する。

 その行動には変わりないのだが、そこでふと思ってしまった。

 通常のプレイヤーでは考えもしない、いわゆる舐めプである。

 俺の背後にある、俺が入ってきた通路を塞ぐバリア。

 奴の斧なら壊せるんじゃね?

 いや、その時思ったのは、多分違う。

 バリアに当たったらどうなるんだろう。

 そんな純粋な疑問程度だったはず。

 しかし俺の行動と表情は、完全に相手の力量を舐め切ったものであった。

 本来、振り下ろしの後に5回攻撃を行うところを、1回に留め、次第にタウロスを誘導する。

 パターンに決めていた時とは違う新たな面白さに、俺はワクワクしていたんだと思う。

 少しずつ。

 少しずつ、壁側に誘導し、その時をじっと待つ。

 移動スペースが減り、回避に余裕がなくなっているにも関わらず、俺は心底楽しんでいた。

 本来の戦闘に近いスリルに、酔いしれていたのかもしれない。

 もう少し、もう少し。

 躱し、身を切る思いで避ける。

 ここだ!!

 タウロスは両手で斧を振り上げ、モーションを開始する。

 俺の背中にはバリアが張り付くほど近い。

 右か左、正確に回避コマンドを入力すれば終わり、そう思っていた。

 通常で状態であれば、縦方向の振り下ろしに対して、左右どちらに回避しても同じことなのだが、この時俺は二択を外すことになる。

 右方向。

 無意識に利き手方向に回避を行う。

 振り下ろしてくる斧をイメージし、パターン化されたタイミングは完璧であったはず、だった。

 完全一人称のGSMオンラインでは回避モーションの視界さえ、忠実に再現されていた。

 タウロスを正面に、右方向へ飛び込み前転。

 地面から、先ほどまでいた後方、あまり高くない空へと視界が推移していく。

 回避モーションは終わり掛けに、防御態勢に移行することが、キャラのHPを守ることになったのは間違いなかった。

 本来、来るはずのない斧の振り回し。

 後方で地面に突き刺さっているはずの斧が眼前に迫り、ガキーンっと金属同士の接触音が鳴り響く。

 「くっ。」

 声にならない声が口から漏れ出る。

 その瞬間、俺のキャラは吹き飛ばされ、通行不可のバリアを突き抜けていた。

 地面に叩きつけられ、勢いを殺せぬまま、転がっていく。

 「っつ、あぶねー、死ぬところだったわぁ。」

 何とか体勢を立て直し、片膝をつき起き上がる。

 まずは状況確認。

 HP残量、約2割。

 まじで死にかけたな。

 武器、ちゃんと持ってる、壊れてない。

 「いやぁ、意外とやれるもんだな。

  実際に切られたと思って、叫んじゃったよ。」

 素直にうれしい気持ちとやり遂げた達成感、直前まで感じていた恐怖感に、俺の感情はおかしくなっていた。

 画面上で起きているはずのゲームが、よりリアルに、ダイブ型の体感に近い感覚にとらわれていたことに気づきもせず。

 それでも周りを見るほどの余裕が出来たのか、立ち上がり周囲を見渡す。

 そして異変と、自分が犯した間違いにようやく気付くことにはなるのだが。

 「あれ?

  入口ってこんな場所だったっけ?」



次回は5月16日18時更新予定

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