第十三章 ゲルマニア戦役(二) 場面三 ゲルマニア(三)
ティベリウスは苦笑する。
アプロニウスは、現在ゲルマニア侵攻中のゲルマニクスの下で従軍している。パンノニアの軍団の暴動の際にはドゥルーススの幕僚として現地へ派遣されたアプロニウスは、パンノニア到着の翌日には使者として陣営を発ち、ローマに戻ってきた。そして、十日とおかずに今度はゲルマニクス指揮下で暴動を起こしていたレーヌス河の軍団へと向かったのだ。確かに人使いが荒いと言われても仕方ない。家族にはさぞ恨まれているだろう。
「変わりはないようだ。確かにわたしの人使いは荒いかもしれないが、あの男に関しては、自分で行くと言ったものだから」
「そうでしたか。それは失礼しました」
ネルウァはさらりと言った。大体この男は、法律のエキスパートとは思えない、さらさらと流れる水のような雰囲気を持っている。元老院でも物静かで、あまり積極的に発言する様子もないし、まして法廷で演説をぶつ姿などとても想像できない。ティベリウスとて、法律面での助言者を求めた時に、知人の勧めでこの男に相談していなければ、こうして親しく付き合うこともなかっただろう。
実を言えば、ドゥルーススの気持ちも正直判らなくもない。この男は、こちらが求めれば湧き出る泉のように惜しみなく応えてくれるが、そうでなければ捉えどころなく流れていってしまうようなところがある。それがどこか人を物足りないような、名残惜しいような不思議な気分にさせるのだ。
ティベリウスは、それには及ばないと固辞するネルウァを玄関大広間まで送っていった。それから部屋に戻り、再びアプロニウスからの書簡を取り上げた。
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