第十三章 ゲルマニア戦役(二) 場面三 ゲルマニア(二)
ドゥルーススは時間を見つけて法律学校に通い、講義を受けたり個人的に教授をしてもらったりしているようだった。それ自体はいいことだが、帰る方向が同じなのを幸いに時折邸にまで一緒に戻ってきて、そのまま自室で話し込んでしまうことがこのところ何度かあった。執政官になり、ティベリス河の洪水の件では責任者の一人として処理に当たったドゥルーススだ。欲が出てきたのかもしれない。だが、あまり度を越しては迷惑になってしまう。先日も一度軽く注意をしたのだったが。
ネルウァは常と変わらない穏やかな口調で言った。
「今日はわたしの方からドゥルースス殿に言ったんですよ。こちらに伺っても構わないかとね」
「それならばいいが。ご迷惑であればいつでも仰って下さい。直接息子に言って頂いても、わたしに対してでも構わない」
「お気遣いをありがとう。何かあればそうさせて頂きましょう」
ネルウァは、それから意外なことを言った。
「今日は、あなたの甥御様も同席なさいましたよ」
「ティベリウスが?」
「あの方も熱心だ。歴史がお好きなご様子で、法律制定の歴史上の背景など、わたしも勉強になった。またご一緒したいものです」
あの引っ込み思案の甥が、そんな席に顔を出したとは。ドゥルーススの面倒見のよさもさることながら、言葉に若干の不自由がある小ティベリウスを快く迎えてくれた、この男の懐の深さも無視できないだろう。
ネルウァは少し頭を下げた。
「すっかりお手を止めさせて。仕事中でしたか」
「アプロニウスからの書簡を読んでいた」
「ああ―――」
ルキウス・アプロニウスは、ネルウァの友人でもある。ネルウァは少しおかしそうに言った。
「元気にしていますか? 彼も大変だ。あなたは人使いが荒い」




