第十二章 ゲルマニクス 場面四 霊廟の祈り(二)
二人が去ると、ドゥルーススは再び墓碑に向き直る。白い大理石に、ネロ・クラウディウス・ドゥルースス・ゲルマニクスと刻まれている。ドゥルーススは腰の剣を鞘ごと外した。本当は父から拝領した箱ごと持ってこようかと思ったが、かえって目立つので腰に帯びてきたのだ。剣を両手で持ち、ドゥルーススはその場に膝を折った。
「名高きネロ・クラウディウス・ゲルマニクス。敬愛する我が叔父上。長いご無沙汰を、どうかお許し下さい」
ドゥルーススは静かに口を開いた。
「この剣を、叔父上は覚えておいででしょうか。父ティベリウスは、遺品として受け継いで以来、戦場には必ず、あなたの魂を宿すこの剣を伴い、ずっと大切に使い続けてきました。ドゥルーシアンの異名を持つこの剣は、多くの兵士たちにとっても、ぼくにとっても憧れの的でした。その剣を、信じられないことに昨夜、ぼくは譲り受けました………」
その時、かすかな啜り泣きの声が耳に届いた。ニゲルだ。ニゲルがガイウスの墓前に跪き、大地に口付けて泣いているのだ。
叔父上。
ドゥルーススは、心の中で呼びかけた。
この剣が、あなたの血を最も濃く引き、あなたの添名「ゲルマニクス」をも受け継いだガイウスではなく、ぼくの手に渡ったことを、あなたは喜ばないかもしれない。だが、それが父の意思ならば、ぼくは従おうと思います。あなたが父を守護なさったように、ぼくは父を守りたいと思う。力不足は判っています。ぼくは父に到底敵わない。それでも、もしも守るというのが傲慢なら、せめて父のために生きたいと思う。父が、ローマのために生きようというなら。
比類なき方、卓越した将軍よ。どうか、お力をお貸し下さい。
ドゥルーススは、その場に額ずく。それから、剣を再び腰に帯びた。
叔父上。
そして、どうかあなたの息子を―――ゲルマニクスを守って下さい。ぼくの大切な従兄、今は兄でもあります。今彼はゲルマニアの戦場にあって、蛮族たちと戦っています。どうか彼と彼の兵士たちが、命と名誉を保てますように。