第十二章 ゲルマニクス 場面四 霊廟の祈り(一)
ドゥルーススは二人の従者―――一人は以前スブッラに伴ったニゲルで、もう一人はナソという若者だ―――を連れ、アウグストゥスの霊廟に足を踏み入れた。幾分明るくなってはいても、夜明け前の初冬の空気は冷たい。敷地は六十パッスス(九十メートル)四方、高さは三十パッスス(四十五メートル)という巨大なドーム状の霊廟の入り口には、アウグストゥスが自ら記した「業績録」を刻んだ青銅板が掲げられている。その内部に、アウグストゥスの家族たちの墓碑が静かに佇んでいた。
三十代のアウグストゥスが建設に着手し、間もなく完成させた巨大な墓地が、その主人の骨を収めるまでに、四十年近い歳月を要した。彼は自らの手で、多くの人々をここに葬らなければならなかった。甥のクラウディウス・マルケッルス、親友のマルクス・アグリッパ、孫で養子のルキウス・カエサルとガイウス・カエサル―――皆、彼より先に逝った。
ニゲルは手提げランプを持ち、ナソは墓に捧げるための香や水を持っている。ドゥルーススはまずアウグストゥスの墓碑に歩み寄り、墓石を水で清め、香を焚いて祈りを捧げた。それが済むと、ドゥルーススは少し奥の墓石に近づいた。それも水で清め、香を焚いた。それから、ランプを手に背後に立っているニゲルを振り返る。
「ニゲル」
ドゥルーススの声は、ドーム内にかすかに反響する。
「はい」
「ぼくは自分の用を済ませるから、君は好きにしてくれていい」
「ドゥルースス様―――」
ニゲルはかつてガイウスに仕えていた。奴隷の身では、まず墓に詣でる機会になど恵まれないだろう。ドゥルーススがちょっと笑って頷くと、ニゲルは深く頭を下げた。
「ナソ」
「はい」
「君も行って、ガイウス殿の墓を清めて、香を焚いて差し上げてくれ」
「かしこまりました」