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第十二章 ゲルマニクス 場面一 ゲルマニア軍団の暴動(一)

「ゲルマニクスのことを、お怒りですか…?」

 パンノニアの軍団の暴動を見事に鎮圧して戻ったドゥルーススは、父ティベリウスにそう尋ねる。

 ゲルマニクスは早世した最愛の弟、ドゥルーススの息子だ。ティベリウスは弟を思い、内心甥の行動に激怒していた。


ゲルマニクスは、その父の高貴な魂を汚したのだ! ほかにどう言いようがあるだろう? それほど、ゲルマニア軍団の暴動の顛末は、醜悪の一言に尽きた。(本文より)

 扉が閉まった。息子の姿が部屋から消えると、ティベリウスはかすかに吐息を洩らす。部屋の隅に控えていた奴隷のヘリオスに酒の支度を命じ、椅子に深く身を沈めた。酒はすぐに用意され、ヘリオスは銀製のカップに生酒をなみなみと注ぎ入れる。

『ゲルマニクスのことを、お怒りですか………?』

 ドゥルーススは遠慮がちに尋ねた。あの忠実な息子には見抜かれてしまう。確かにゲルマニクスへの怒りが、ティベリウスの背を押したことは否定できなかった。昨日帰都したばかりの息子に、ゲルマニアのことを話したのは誰だろう。グナエウス・ピソだろうか。それとも家人の誰かか。ドゥルーススの許に届いた、帰還を祝うたくさんの手紙の中にでもあったのか。いずれにせよ、もう多くの者に知れていることだ。

 ゲルマニアからの報告書を受け取った時、ティベリウスは己の目を疑った。

 ゲルマニクスは配下の暴動を鎮圧するのに、こともあろうに最高司令官ティベリウスの書簡を捏造したのだ。ゲルマニアの軍団の要求は、兵役期間の短縮とアウグストゥスの遺贈金の即時支払いだった。ゲルマニクスは兵役期間の短縮を認めたわけではなかったが、二十年の兵役期間のうち、最後の四年間は予備役とし、敵襲への対応以外の任務から解放するとした上、アウグストゥスの遺贈金を倍額にして支払う旨、最高司令官たるティベリウスにも、元老院にも一切諮らず、しかもティベリウスの書簡を捏造までして勝手に約束したのだ。

 報告書を読んだティベリウスは一瞬唖然とし、その驚きはすぐに怒りに変わった。配下からの「脅し」に屈したという一事だけでも、ティベリウスからすれば言語道断の振る舞いだ。仮に、ゲルマニクスが配下の反乱を鎮めるため、アウグストゥスの遺贈金に加えて自分の懐からいくらかの祝儀を払うと約束したとしても、ティベリウスはそれを咎めはしないまでも、決していい気はしなかっただろう。まして自らの権限で行うことが出来ないことに関して、最高司令官の文書を捏造するとは! 軍団兵たちと最高司令官双方対して、これほどの裏切りがあるだろうか。 

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