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第十章 混乱 場面二 ポストゥムス暗殺(二)

「―――!」

 ドゥルーススは息を呑んだ。

「まさか………」

 プラナシア(ピアノーザ)島に流されたポストゥムス。数ヶ月前、アウグストゥスは彼に会ったという噂もある。

「まさか、そんな………。一体、誰が殺したんですか?」

「実行したのは百人隊長の一人だ。名前は伏せておく。だが、命じたのはアウグストゥス本人だ。アウグストゥスがクリスプスに指示し、クリスプスが手はずを整えた」

「………」

 ドゥルーススは呆然と父を見た。アウグストゥスが、自分の孫を殺した?とても信じられない。それを語っているのが父でなかったら、一笑に付したか、あるいは怒り狂っただろう。そんなバカな話があるか、と。

 だが―――

 ドゥルーススの脳裏に、アウグストゥスからの最後の書簡が甦った。

『カエサル家内のことは家人のクリスプスに相談するように』

 カエサル家内のことはクリスプスに。

「信じられないか」

 ティベリウスの問いも、半分頭に入らなかったようだった。ドゥルーススは身体が震えだすのが判った。

 それは、怒りだったかもしれない。悲しみだったかもしれない。憤り、というのが一番近かっただろうか。様々な感情が交じり合った、ドス黒い衝動。

「ドゥルースス?」

 アウグストゥス。

『………そなたの聡明さ、この上ない愛情の深さが、どれほどこの老人を、そしてあの強情な男を慰めてくれたことだろう。愛しい孫、ドゥルーススよ。わたし亡き後、カエサル家をよろしく頼む』

 アウグストゥス!

 ドゥルーススは、アウグストゥスの言葉が嬉しかったのだ。アウグストゥスと父との間で板ばさみになって苦しかっただろうとか、自分がアウグストゥスの慰めとなったとか、書簡に記された言葉の一つ一つが嬉しかったのだ。だが、あの手紙は、そんなことのために書かれたものではなかったのだ。クリスプスに命令の実行が近いことを知らせるため、ただそれだけのものだった。

 アウグストゥス。

 ましてぼくはあなたのために、何よりもあなたのために、ポストゥムスを救おうと必死で努力をした。それを、何故こんな形で………!

 ドゥルーススは臥していた寝椅子から立ち上がる。ティベリウスは身体を起こし、息子を見つめた。ティベリウスは、ドゥルーススの怒りを誤解したようだった。

「ドゥルースス。神々に誓ってわたしは命じていない。世の人々が何と言おうと、お前には信じて欲しい。わたしでも、母上でもない」

「ええ、判ります。判っています。父上ではありません。命じたのはアウグストゥスだ!」

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