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第十一章 パンノニアへ 場面三 粛清(五)

 大切な参謀であり、友人でもある男たちに向かって、「首都がいい加減恋しいな」と冗談交じりに言えるようになったのは、十月も十日を過ぎた頃だった。それに少し先立つ十月七日、二十六歳の誕生日を、ドゥルーススは陣営で迎えた。マルクス・ピソが覚えていたらしい。誰にも何も言わなかったのに、ドゥルーススのためにささやかな宴が持たれ、兵士たちにも特別な食材が支給された。近隣の町で仕入れた少し上質のワインと、よく煮込んだこってりとした牛肉入りのスープは、各百人隊ごとに甕や鍋で与えられた。軍団兵たちは先を争ってそれを汲み、あちこちで「この佳き日に乾杯!」「神々の御孫のお慈悲に感謝して」―――父が神君アウグストゥスの息子であるからだろうが、妙な感じがする―――、などとそれぞれの言葉で、この予期せぬ贈り物を歓迎した。

 首都からの返答は送られてこない。恐らく永遠にこないだろう。父の真意が「要求拒否」にあると判っている以上、それは始めから予期されたことだった。ドゥルーススは陣営を回り、自ら兵たちと話をした。レントゥルスやピソもそれぞれ情報を集めており、ブラエススを交え、それらをもとに軍団の改善点を話し合った。また、個人的にブラエススに依頼して、パンノニア属州統治のための行政機構について話を聞き、実際に現地の行政官たちに会ったり、各地を視察したりして時間を過ごした。時にグナエウス・レントゥルスを伴った。彼はこの方面の経験も豊富であり、ドゥルーススにとっては頼りになる助言者だった。

 ローマの軍団は、属州の治安維持、土木工事はもとより、時には総督の手足となって裁判や揉め事の仲介を担当するなど、属州統治の一翼を担う。また、大抵の分野では最先端の知識と技術を有しており、たとえば陣営付属の医療施設は、医薬品の供給や医師の派遣といった形で、現地の医療センターの役割をも果たす。ローマの平和(パクス・ロマーナ)―――ローマの覇権下に入るということは、これらの恩恵を享受できるということでもあるのだ。

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