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第十一章 パンノニアへ 場面三 粛清(四)

 兵たちに恭順の気持ちが戻ったあの美しい朝から、首謀者の一掃が完了するまでの数日間が、ドゥルーススにとっては最も重苦しい日々だった。レントゥルスには落ち着いていると褒められはしても、やはり「場数を踏んでいない」ことによる弱さは否めない。ほとんど眠れない夜がしばらく続いた。ドゥルーススが処刑の場に立ち会ったのは、天幕内で殺害されたペルケンニウスとウィブレヌス、それに脱走を図った兵など、十人にも満たない。その他の者は、リストにあった名前で知るのみだ。ドゥルーススは顔も知らぬはずの彼らが、血まみれの姿で司令官の天幕を訪れ、我が身の無実と無念とを訴える夢に(うな)された。泣く者もあり、吼える者もあり、ある者は寝台に横たわっているドゥルーススの上にのしかかりさえした。奇妙だったのは、彼らが一様に自分の所属と氏名を名乗ったことだった。「第十五アポナリス軍団、第四大隊(コホルス)第五百人隊(ケントゥリオ)所属、ファビウス・ファレル………」

 セイヤヌスは相変わらず饒舌で、親衛隊兵だけでなく、一兵卒相手にも気軽に冗談を飛ばした。マルクス・ピソは「中々寝つきが悪くて」と、自分の話をしているようで、その実、ドゥルーススを気遣う様子を見せた。グナエウス・レントゥルスは落ち着いた態度を崩さず、ブラエススや軍団長たちに経験談を語ったり、助言を与えたりして過ごしている。どうやら軍団内の待遇のヒアリングも兼ねているようだった。

 心弱りのせいなのか、ドゥルーススは、初めて軽いホームシックを経験した。気の強い妻、素直な娘、幼い息子、厳格な父、快活な義叔母………。無性に、彼らに会いたい。会って話を聞いてほしい。だが、同時に思う。会ったところで、一体、どんな話を? 一言の釈明も許さずに粛清した軍団兵たちのことを? 眠れない夜の長さ、魘される闇の重さ、汗に濡れた短衣の、肌に触れる冷たさ―――

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