第十一章 パンノニアへ 場面三 粛清(一)
一夜が明けて、ドゥルーススはよく晴れた空の下、軍団兵たちに向かって演説をした。すっかり別人のように規律を取り戻した軍団兵たちは、指揮台の前に一糸乱れぬ美しさで整列し、どこか緊張した様子でドゥルーススの言葉を待っている。それは悪戯がバレて父の元に謝りに来た息子とでもいった様子で、ドゥルーススは改めて彼らを愛しいと思った。
「軍団兵諸君。今朝あなた方を前にして、わたしはひょっとするとまだ夢を見ているのではないかとさえ思ったことをまず告白する。ひょっとすると、昨日のあなた方のほうが夢だったのだろうか。一夜にして、あなた方はまるで生まれ変わったかのようだ。わたしがかつて目にした通りの、世界で最も勇敢かつ美しい軍団、それこそがあなた方本来の姿だ」
ドゥルーススは皆を見回した。
「わたしは、暴力や威嚇を恐れない。だがカエサルは、祖国ローマを守るという尊い役目を担う軍団兵たちの願いに、耳を傾けない者では決してない。それは最高司令官とて全く同様だ。わたしは父に手紙を書こうと思う。武器をもってするのではなく、最高司令官と祖国ローマへの忠誠心をもって願いを訴えるならば、慈悲深く寛大な父は、きっと耳を傾けて下さるだろうと思う」
軍団兵たちに異存はなかった。再び使者に選ばれたのは、息子のブラエスス、ルキウス・アプロニウス、及び上級百人隊長―――百人隊長の中でも作戦会議に参加を許されている者を指す―――のカトニウス・ユストゥスという男だった。ドゥルーススは軍団兵たちの要求事項を改めて書き出し、それを皆に確認させた。そして事の顛末を簡単に説明する書簡を添え、親衛隊兵をつけて首都へと送り出した。
陣営は、首都からの回答を待つことで、一応の平穏を取り戻した。規則正しい一日が再び始まった。だが、まだ終わりではなかった。
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