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第十一章 パンノニアへ 場面一 助言者たち(四)

 二日目、フラミニア街道を北上していたドゥルーススは、レーヌス河ぞいの基地からローマへと向かう使者と行き会った。男はドゥルーススら一行に気づき、慌てた様子で駆け寄ってきた。男は所属を名乗った上で(低地ゲルマニア軍の一員だった)、ドゥルーススに是非とも報告を聞いて欲しいと言う。ドゥルーススは僅かな親衛隊兵と共に馬を停め、セイヤヌスに速度を緩めて進軍を続けるように命じた。

使者は恐ろしい事実を告げた。

 兵士たちの暴動が、レーヌス河の軍団でも起きているというのだ。

 ゲルマニクス!

 真っ先に頭に浮かんだのは、ゲルマニクスのことだった。パンノニアの三個軍団に対し、レーヌス河は高地・低地あわせて八個軍団―――正規兵だけで五万の兵を抱える。かの地では、既に何人もの百人隊長が殺害され、大きな混乱が起きているという。

 ドゥルーススは迷った。ドゥルーススは親衛隊九個大隊のうち、二個大隊を率いて都を発っている。騎兵隊も過半数を伴っているし、ゲルマン人護衛隊も大半が同行している。もし都から新たに使者を送ろうとした場合、護衛の兵にさえ事欠くという状態ではないだろうか。ローマを発って、まだ一日半しか経過していない。戻ろうと思えば戻れる。

 しかし―――

 迷った末、ドゥルーススは使者に、このままローマに向かい、最高司令官の指示を仰ぐようにと命じた。ドゥルーススと途中で会ったことも話をした上で、もしも何か指示があれば、直ちにそれに従うとの言葉も伝えて欲しいと告げて別れた。そしてドゥルーススは一行に追いつくべく馬に鞭を当てた。

 事態の急変を受けて、ドゥルーススに対して何らかの新たな命令が下されるにせよ、それを事前に忖度(そんたく)するのはあまりにも僭越なことに思えた。父は恐らく一人で決断を下すだろう。ドゥルーススの派遣をひとりで決めたように。

 それに、ドゥルーススには予感があった。父は、恐らくレーヌス河へは誰も派遣しないだろうという、ほとんど確信めいた予感があったのだ。軍隊経験のないドゥルーススを、パンノニアへ派遣したティベリウスだ。レーヌス河軍団の事態の収拾は、その総司令官たるゲルマニクスに一任するのではないか。

 ゲルマニクス。

 心の中で呼びかけた。

 頑張れ、ゲルマニクス! ぼくも精一杯やる。君に笑われないように、立派に任務を果たしてみせるから。君もどうか頑張ってくれ。父の前で胸を張って、互いの無事を喜び合えるように。互いを誇りに出来るように。

 大切な、親愛なる君よ。君に、神々のご加護を。

 ドゥルーススは間もなく一行に追いつき、隊は再び速度を上げた。

 一路、パンノニアへ―――

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