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第十一章 パンノニアへ 場面一 助言者たち(二)

 それでも、判ってもらいたい一心でドゥルーススは続けた。

「ですが、問題は一万八千人ではなく、国家全土に配備された十五万人の兵であることを考えなければなりません。その影響の大きさを思えば、安易な譲歩は決して許されないことは明らかです。彼らにそこまで理解しろというのは無理な話かもしれません。ですが、少なくともここにいる方々には、父と気持ちを一つにしていただきたいと思う。我が国全体の平和と安全のために、安易な妥協は決して許されないこと。そして、卓越した凱旋将軍である父が、北の国境を守る兵たちを心から大切に思い、その生活の質的向上に心を砕いていること。我々の任務は、結局のところ彼らにそのことを再び思い起こさせ、彼ら本来の、国と秩序への愛を取り戻させることに尽きると考えています」

 ドゥルーススはそう言って、一同を見回す。

「ぼくの話は以上です。経験豊かなあなた方に対して、長々と述べ立てたことをどうかお赦し下さい。是非、今度はあなた方の話をお伺いしたいと思う。助言でも、忠告でも、譴責でも構いません。ぼくにはあなた方の持つ知識と経験が絶対に必要です。どうかこの任務をやり遂げるために、あなた方のお力をぼくに貸して下さい」

 天幕内に沈黙が降りる。やがて最初に口を開いたのは、重鎮レントゥルスだった。ドゥルーススにとって、それはやや意外な事だった。

「第一人者カエサルが、若きドゥルースス・カエサルにこの困難な任務を任せたことを、恐らく皆、納得されたことと思う。カエサルは、確かに軍隊経験を持たぬ方だ。だが、このたびの任務の性質を思えば、やはり第一人者は的確な人選をなさったと確信している。もしもこの一行の代表者がわたしのような軍隊経験を積んだ煙たい年寄りであれば、兵たちはすわ自分たちを鎮圧しに来たぞといきり立ち、恐らく話を聞こうともしないであろうから。若きカエサルは、この任務の性質をよくご存知だ」

 レントゥルスはドゥルーススを見る。その頬に僅かに笑みが浮かんだようだった。

「失礼を承知で言うなら、あなた方がたった今耳にされた通り、カエサルは決して雄弁ではない。だが、耳を傾けさせる何かがある。それは熱意というのか、誠実さというのか、当たり前のようでいて、案外誰もが持つことは出来ない性質のものだ。恐らくそれが、今回の任務を遂行する上での強力な武器になってくれることだろう。カエサルはカエサルの、我々は我々の、それぞれの役割をきちんと果たしさえすれば、きっとこの困難な任務も無事に遂行できよう。神々がローマを(よみ)したまうなら、国を愛する我々をも、きっとお守り下さることだろう」



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