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第二十一章 タルタロス ―――地獄 場面七 死(二)

 ティベリウスは半身を起こした。左手の薬指に輝いている、カエサル家の印章指輪を外し、ほのかなランプの明かりの中でしばらく眺めた。アウグストゥスから受け継いだ指輪だ。それと共にこの手に託された、広大な世界国家ローマ。

 ガイウス・カリグラは、神経質で奴隷気質だった。ティベリウスには絶対服従で、マクロに対しても丁寧な態度を決して崩さない。人の好き嫌いが激しく、敵味方をはっきりと峻別しようとするなど、母アグリッピナにそっくりなところがある。アッルンティウスの予言は、ひょっとすると的を射たものになるかもしれない。

 だが、ティベリウスにはもう選択権はなかった。アウグストゥスの血胤は、カリグラを除いてほとんど絶えてしまったのだ。他にどうしようがあるというのだろう?

 ああ、アウグストゥス。

 わたしは………―――

 ティベリウスは、指輪を再び薬指に嵌めた。喉の渇きを覚え、ティベリウスは言った。

「誰かいないか」

 奇妙なことに、室内はしんとしている。普段ならティベリウスが声を掛ければ、すぐに誰かがやってくるはずなのに。

「誰かいないか」

 もう一度言った。部屋は随分と薄暗い。果たして声が出ているのだろうか。それさえも判らなくなった。


 誰かいないか。

 誰かいないか。


 わたしには、誰もいないか?

 この国を、託すべき者は………誰もいないか?


 誰かいないか。

 誰かいないか。

 誰か………


 ティベリウスは、寝台から降りようと腕に力を込めた。だが力が抜け、バランスを崩した。どこか遠くで、どさり、と鈍い音がした。

 どこか遠くで。

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