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第二十一章 タルタロス ―――地獄 場面三 マクロ(二)

 ナエウィウス・マクロは、親衛隊の軍装のままだった。任務の途中で抜けてきたのだろうか。アントニアが部屋に入ると、マクロは立ったまま、丁重にお辞儀をした。腰に帯びた剣が、チャリ、と微かな音を立てる。

「お待たせしました」

 アントニアは言った。マクロは「いえ」と応じる。

「火急のお話とか」

「端的にお尋ねします。アピカータから、手紙を受け取られましたね」

 アントニアは眼を瞠った。

「随分と耳が早いのね」

「僭越を承知で申し上げます。その手紙を、わたしに見せて下さい。一刻を争うことです」

 アントニアは男を見た。ティベリウスが抜擢した親衛隊長官、マクロ。ドゥルーススとも親しかった男だ。この男が、どうして手紙のことを知ったのかは判らない。だが―――

 アントニアは立ち上がった。

「お待ち下さい。持って参ります」

 アントニアは私室へ戻って手紙を取り、再びマクロの元へ戻った。

「こちらです」

 マクロは立ったままで、アントニアが掛けるよう進めても応じなかった。手紙を受け取り、もどかしげに眼を走らせる。アントニアは椅子に掛けた。マクロは最後まで目を通し、更に共犯者が書かれた別紙を読んでから、元のようにそれを畳み、卓上に置く。

「リウィッラ殿を幽閉したとのことですが」

「本当によくご存知ね。その通りよ」

「どうかやめて下さい」

 アントニアは男を見る。

「何故、あなたがそんな事を仰るの」

 マクロの濃い茶色の眸が、真っ直ぐにアントニアを見据えた。

「それがわたしの大切な友、ドゥルースス・カエサルの遺言だからです」

「………!」

 アントニアは思わず腰を浮かせた。マクロは言った。

「ドゥルーススは、自分の妻の裏切りの事を知っていました。自分が毒を盛られたことにも、薄々気づいていたんです。わたしは彼に復讐をさせてくれと言いました。ですが、ドゥルーススはそれを許さなかった。「復讐は何も生み出さない。悲しみも憎しみも増すばかりだ。国内の不幸は、悲しみと共にただ葬られるべきだ」―――それが死に臨んでのドゥルーススの言葉でした」

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