第二十一章 タルタロス ―――地獄 場面三 マクロ(一)
アントニアは執事のアスプレナスを呼んで書簡を見せ、同じものが既にティベリウスの元へも送られている事を告げた。それからリウィッラには今後一切水も食物も与えないように、それから、書簡にある「共犯者」たちを、全て地下に幽閉するように指示した。
アスプレナスはしばらくの間、驚きのあまり口が聞けない状態だった。長い沈黙の後、ようやく口を開く。
「リウィッラ様以外の方々はどうなさいますか」
「ティベリウスの指示を待つわ」
アスプレナスはアントニアを見つめた。言わんとする事を察して、アントニアは言った。
「リウィッラは罪を自白したの。あの子だけはわたしの手で罰を与えるわ」
「奥様、それはしかし―――旦那様のご指示がなければ」
「わたしにその権限がないことは判っているの。でも、どうか言うとおりにしてちょうだい、アスプレナス。責任は全てわたしが取るわ。ティベリウスを、わたしの娘のことで煩わせたくはないの。娘の罪は、どうかわたしの手で片をつけさせて。お願いよ」
アスプレナスは黙って頷き、一礼して部屋を出て行った。アントニアは娘の部屋で、しばらくぼんやりしていた。不意に使用人が入ってきて、親衛隊長官のマクロが、至急謁見を願っていると告げた。正直気は進まなかったが、アントニアは会見を承諾し、奥の部屋に客人を通した。
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