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第二十一章 タルタロス ―――地獄 場面二 アピカータの手紙(六)

「言うことはそれだけ?」

 アントニアは尋ねた。リウィッラは昂然と言った。

「カエサルはわたしを殺すんでしょう? あの人を殺したように」

「カエサルに、あなたは殺させないわ」

「お優しいのね」

 リウィッラは笑った。アントニアは寝台に背を向け、部屋に控えていた使用人に向かい、護衛兵三人をここに呼ぶように言った。リウィッラは狼狽したようだった。

「お母様?」

 護衛兵はすぐに来た。アントニアは彼らに言った。

「リウィッラを地下へ連れて行って」

「お母様!」

 「地下」とは、ほとんど地下牢のような使われ方をしている地下倉庫のことだ。ゲルマニクスの次男ドゥルーススも、ここに幽閉されている。護衛兵たちは戸惑った様子で互いに顔を見合わせている。アントニアは繰り返した。

「責任はわたしが取るわ。リウィッラはカエサルに対して重大な罪を犯したの。今からカエサルには報告するわ。すぐに連れて行きなさい」

 カエサルの名に、護衛兵たちは決心したらしく寝台に歩み寄り、下着姿のリウィッラを強引に立ち上がらせた。

「お母様! 待って!」

 アントニアは叫ぶ娘を見た。

「嫌! 地下は嫌よ! やめて! やめさせて!」

 下着姿で髪を振り乱すその姿さえ、この愚かな女は何と美しいのだろう。

「さようなら」

 静かにアントニアは言った。泣き喚きながら娘は部屋から引き出され、扉が閉まった。しんとなった室内で、アントニアは寝台の傍らに落ちていた書簡を取り上げ、もう一度中身を読んだ。涙が頬を伝った。ドゥルースス。ティベリウス。どうかわたしを赦して。あれほどに忌まわしい娘を産んだわたしを―――どうか赦してちょうだい。

 一体どうすればいいのだろう。アピカータからの手紙を読んだ時、一体ティベリウスはどうなってしまうのか。アントニアにも、それはまるで見当がつかなかった。

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