第二十一章 タルタロス ―――地獄 場面一 セイヤヌスの破滅(五)
一方、夜警隊長官となったラコは、部下を使って神殿に続く全ての道路を封鎖し、自身はそっと神殿内に入った。神殿内では執政官レグルスによる、ティベリウスの書簡の朗読が続けられていた。それは役割を与えられた男たちの準備が完璧に終わるまでの時間を稼ぐための、長い文章だった。最初はどうということはない話題から始まり、議員たちの誰もがそれを聞き流していた。文章は延々と続き、さりげなく、セイヤヌスに対する非難めいた言葉が差し挟まれた。その言葉を合図に、レグルスの命を受けた政務官や議員たちが、一人二人、目立たぬように神殿の入口を固め始める。
そのうち、文章の調子が変わり始めた。
「今や、国家の安全は危機に瀕している。わたしがローマに戻る時は、執政官に警護してもらえるよう求めたい」
それから、文章は更に厳しさを増す。
セイヤヌスと最も親しい元老院議員に対し、有罪が宣告された。そして息をつく間も与えず、ティベリウスの容赦ない断罪の言葉が、鋭い剣さながらにセイヤヌス本人に振り下ろされた。
セイヤヌスに宣告された罪名は、国家反逆罪。ティベリウスの書簡は、長官就任後からつい最近に至るまでのセイヤヌスの「罪」について、数々の証拠をつきつけた上で、セイヤヌスに死刑判決を下し、元老院に対して刑の即時執行を求める言葉を持って結ばれていた。
セイヤヌスは呆然としていた。第一人者の提案が採決にかられ、全議員の賛成をもって死刑の即時執行を可決する間、何が起こっているのか理解できない様子でただ椅子に腰を下ろしていたのだ。
「ルキウス・アエリウス・セイヤヌス!」
レグルスは罪人の名を呼んだ。だが、セイヤヌスはまだ自失していた。レグルスは続けて二度、名を呼び、セイヤヌスはそれでようやく我に返った。まだ信じられない様子で、ふらりと席を立った。傍らにはラコがいた。ラコがセイヤヌスの腕を掴み、最前列の席から中央へと引きずり出した時、議員たちから一斉に歓喜の声が上がった。
セイヤヌスは牢獄へ連行され、即座に首を切られた。話はすぐに都中に広まった。市民たちもこの「第二人者」の死を歓声で迎えた。至るところでセイヤヌスの像が引き抜かれ、叩き壊された。セイヤヌスの死体は市民たちの呪いの言葉や、石礫や卵やゴミを浴びせられながらティベリス河の罪人の階段まで引きずっていかれ、踏みつけにされ、切り刻まれた上で河に投げ捨てられた。成年に達していた長男とセイヤヌスの叔父、ユニウス・ブラエススも連行され、首を斬られた。
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