315/356
第二十一章 タルタロス ―――地獄 場面一 セイヤヌスの破滅(一)
建国暦七八三年(紀元三十一年)十月十八日という日は、二人の男が地獄へ突き落とされた日だった。一人の男が死の地獄へ、一人の男が生き地獄へと足を踏み入れたあの日のことを、アントニアは周囲の人々の言葉から断片的に知っているに過ぎない。だが、一人の男が書いたシナリオの完璧さは、その断片からでも十分に窺い知ることが出来る。
多くの人々にとっては突然であった「十月十八日」が、本当は一体いつから、深く静かに進行中であったのか。それは恐らく、シナリオを書いた「その人」、ただ一人しか知らない。




