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第二十章 シジフォス―――苦行 場面八 第二の書簡(一)

 カプリ島からの第二の書簡は、二日後には早くも元老院に届けられた。最初の書簡よりも、その言葉は一層厳しさを増していた。まずティベリウスは、元老院に圧力を掛けるような暴挙は決して許さないとして、民衆のデモを禁じ、違反した者は厳罰に処すと布告した。更にアグリッピナとネロに対する批判を繰り返し述べた上で、この重大な問題に対し適切な処置をとらないのは、元老院議員としての責務を放棄したも同然だとして強く叱責した。

 第一人者のこの強硬な態度の前に、元老院は、アグリッピナとネロに対する裁判を始めるより他なかった。裁判はゲルマニクスのとき同様元老院で行われ、セイヤヌスが集めさせた二人の素行や反抗的な態度に関する「証言」の数々が提出された。

 その内容に、人々は戦慄した。何故ならそこに記された証言の数々は、多くはネロやアグリッピナの友人や取り巻きと見られていた人々のものだったのだ。彼らは、一部はセイヤヌスの命を受け、友人や理解者を装って二人に近づいた者たちであり、また別の一部は元々友人で、買収や脅迫や様々な手段によってセイヤヌスの証拠集めに協力した者たちであったのだ。




 確かに、セイヤヌスがこうしたやり方で人を告発することは初めてではなかった。一年前の一月一日、ゲルマニクスと親しく、ドゥルーススとも交友があった、上級騎士のティティウス・サビヌスという男が、同様のやり方で破滅に追い込まれていた。元旦や祝祭日には、刑の執行が行われないのが慣例だった。だが、ティベリウスはセイヤヌスがサビヌスに接近させた手下たちの告発を受理し、元老院に新年の祝賀を述べる書簡の中でこのサビヌスに罪を宣告したのだ。

「元老院議員諸君。被告はカエサル家の解放奴隷を買収し、わたしを暗殺しようと企てた。この男の罪は、数々の証拠によって明らかである。賢明なる諸君の厳重な処罰を求める」

 元老院は即座に判決を下し、この男の首に縄をかけ、口がきけぬよう頭から短衣を被せた上でローマ広場のすぐ外にあるマメルティウムの牢獄へと連行した。獄吏の手で通りを引きずられながら、サビヌスは頭を覆われ、首に縄をかけられた状態であらん限りの大声で喚き続けたという。

「みんな見ろ、新年早々からこの有様だ! わたしは生贄だ! 血塗られたセイヤヌスに捧げられる生贄だ! ああ、ゲルマニクス万歳!」

 アグリッピナとネロに対する「証言」の数々は、サビヌスに対してよりもはるかに詳細で、しかも長期間にわたっていた。ゲルマニクスが生きていた時期のものは勿論、アウグストゥスが存命中の頃のものまであった。元老院も、この裁判の話を聞いた市民たちも、こうなるともはや誰を信用していいのか判らない気分になったのも当然だ。壁の後ろにも、天井裏にも誰かの目が光っており、誰かが耳を澄ましている―――。人々は怯えて疑心暗鬼になり、互いに警戒しあった。知人たちの不用意な発言や冗談を書き留め、万一のときの武器に、あるいはいよいよとなったときの復讐の道具にしようとするようになった。



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