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第十章 混乱 場面一 アウグストゥスの死(三)

 ティベリウスは九月に入って一行を離れ、遺体が首都に入るよりも少し早く、僅かな親衛隊兵と共に馬で首都に戻ってきた。元老院の開催を布告した期日は、既に翌日に迫っている。父のことだからきちんと計算して戻ってくるだろうと思ってはいたものの、ドゥルーススは正直ホッとした。ドゥルーススはアントニアや小ティベリウス、子供たちといった家族や数人の家人と共に、玄関大広間で父を迎えた。

「今戻った」

 親衛隊兵数人を伴い、足早に入ってきた父はそれだけを言った。

「お帰りなさいませ」

 ドゥルーススはそう応じたが、父の様子には思わず目を瞠った。

 父は痩せていた。漆黒のマントを身につけ、威儀を正してはいたが、靴も衣服も砂埃で汚れている。滅多に疲れた様子など他人に見せることがない父が、この時は憔悴しきった様子で、眸の光だけが異様に目立っていた。無理もない。夜とはいえ夏のさなかに十日以上も徒歩で遺体に付き添い、更には全速力で馬を駆って戻ってきたのだから。

「父上―――」

「ご苦労だった」

 ティベリウスはそう言って、ドゥルーススの肩に手を置いた。その声さえ、僅かにかすれている。

「服を換えてくる。それから首都のことを報告してくれ。神祇官殿は何と?」

「連絡さえもらえればいつでもおいで下さるとのことです。こちらで待とうとも言って下さったのですが、長旅から戻られたばかりでお会いになるのもと思って、連絡を差し上げると話をしました」

「それでいい。昼過ぎにお越しを願ってくれ。その後、日が落ちたらストラボが来る。そのつもりで準備を」

 ストラボはフルネームをルキウス・セイユス・ストラボといい、現在は息子のセイヤヌスと共に親衛隊長官の地位にある。セイヤヌスは今、アウグストゥスの遺体を護送する役目を務めているはずだ。

 ドゥルーススに矢継ぎ早に指示を出した後で、ティベリウスは親衛隊兵に目を向けた。

「任務ご苦労だった。兵に休息を取らせろ。それから、お前も少し休め」

「はい。ありがとうございます」

 言い残してそのまま広間を突っ切ろうとした父を、ドゥルーススは慌てて呼びとめる。

「父上」

 ティベリウスは足を止めた。

「差し出がましいですが、どうか少しだけでも休んで下さい。昼までに少し時間があります。表向きのことは神祇官殿と相談して進めてきました。ぼく一人で話をするよりも、一緒にいていただいた方がいいと思います」

「―――」

 ドゥルーススは父の眸を見る。

「顔色が真っ青です。神祇官殿も心配なさるでしょう。まずは、湯を使われては?浴室は用意させています」

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