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第十九章 祈り 場面五 息子の友人(三)

 夜警隊長官マクロが訪ねてきたのは、葬儀から十日が過ぎた頃だった。マクロはティベリウスの指示通り、朝の伺候客に紛れてティベリウスの邸を訪れ、そのまま奥へと案内された。ティベリウスは庇護民たちとの挨拶を終えてから、私室に戻った。ティベリウスが扉を開けて中へ入ると、マクロは立ったまま待っていて、ティベリウスに挨拶をした。細長い地味な皮袋を、胸に抱くようにして持っている。用件とは、恐らくこれのことなのだろう。

 年齢は四十歳。栗色の髪と眸をもつこの男を、副官から昇格させる形で夜警隊長官に就任させたのはティベリウスだ。前の長官は六十代に入っていたから、それによって夜警隊の雰囲気は随分と変化したようだった。遊び人だが仕事熱心、という点では、親衛隊長官のセイヤヌスといい勝負かもしれない。ある程度の地位に就いている者にしては珍しく、いまだにスブッラの集合住宅に住んでいるという。

「お待たせした」

「いえ―――」

 マクロは控えめに言った。ティベリウスは手振りで掛けるよう勧めたが、マクロは「このままで結構です」と応じなかった。

「失礼します」

 断ってから包みを卓上に置き、皮袋の紐を解いた。中から現れた物に、ティベリウスは眼を瞠った。それは見覚えのある長さ三十ウンキア(七十センチ)程の細長い箱だった。

 ドゥルーシアン。かつてティベリウスが弟の遺品としてもらいうけ、息子に授けた物だった。遺品の中に、この品がないことにはすぐに気づいた。それを、この男が持っていたとは。

 マクロは両手で箱を持ち、ティベリウスに差し出した。

「あなたにお渡しするよう、ドゥルーススから頼まれました」

 ティベリウスは男の濃い茶色の眸をしばらく見つめた。

「ドゥルーススが、君にこれを贈ったのか」

 マクロはかぶりを振った。

「いえ。病床の彼を見舞った時、あなたにお渡しするようにと託されただけです」

 ティベリウスは箱を受け取った。

「中を見たか」

「はい」

 ティベリウスは箱を卓上に置き、中から剣を取り出した。ティベリウスが修復させた皮革は、まだ傷みもなく艶があった。象牙製の柄を握り、ティベリウスは剣を取り出した。馴染んだ感触だ。ティベリスは剣を抜いた。研ぎ澄まされた白い刀身が、かすかに光を放っているようだった。

「これが何かを知っているか」

 尋ねると、マクロはかすかに笑みを浮かべる。

「「ドゥルーシアン」を知らないローマ人はいません」

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