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第十九章 祈り 場面三 愛しい者たち(一)
泣いている………?
深く暗い闇の底で、誰かが泣いている。
腸も千切れるような、心の臓も裂けるような激しさで泣いている。
魂から血を流しながら、声を限りに叫んでいる。天を仰ぎ、呪い、祈り、慟哭している。
父上、あなたですか?
ああ、どうか泣かないで下さい。あなたの心の烈しさをぼくは知っている。冷酷とさえ噂される、誇り高いその心の熱さを。歓び、悲しみ、怒り―――その全てをかけて愛し、慈しみ、そして憎むその心の深さを。
父上、そこにいらっしゃいますか?
ぼくはもう、よく眼が見えないのです。あなたの顔も、もうよく判らないのです。
いらっしゃるのでしたら、どうかぼくの手を取って下さい。ぼくの声を聞いて下さい。
どうか嘆かないで下さい。誰も恨まないで下さい。あなたの心の平安を祈って死んでいったピソ殿の言葉を忘れないで下さい。あなたを愛した人々の言葉を。
どうか幸せに。それだけがぼくの願いです、父上。
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