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第十八章 裏切り 場面一 セイヤヌス(三)

長男らしく真面目で大人しいネロ・ゲルマニクスは、道々ドゥルーススに、新しい兵営建設の意義や、建築技術の事を尋ねた。建設の理由についてはともかく、技術的なことについてはドゥルーススも素人でしかない。ドゥルーススは苦笑して言った。

「そういう方面のことなら、先刻ラティニウスといる時に尋ねればよかった」

 ネロは恥ずかしそうに答えた。

「………お話の邪魔をしてはいけない気がして」

 ドゥルーススは頬笑んだ。娘のユリアがこの若者と結婚しているが、若い二人を見ると、どうもままごとの域を脱していないという気がする。お互いに、まだまだ子供だ。

「お前の質問は、ぼくにも答えられないことばかりだ。尋ねていてくれれば勉強になったのに。今度、機会があったら聞いておいてあげるよ。建築は面白いか」

「はい」

「頼もしいな。セイヤヌス」

 ドゥルーススはセイヤヌスに声を掛けた。

「はい」

「ネロが兵営建設の理由を知りたいそうだ。発案者の君から説明してやってくれないか」

「では、僭越ながら」

 恐らくそんな事を思ってもいないだろう。軽い口調でセイヤヌスは言い、この男らしいくだけた調子で説明を始めた。ドゥルースス・ゲルマニクスと話していたサビヌスが、ちらりと視線をこちらに向けたのが判る。ドゥルーススが小さく目配せをすると、サビヌスは視線をアプロニウスらに戻した。

 ドゥルーススは、サビヌスが元老院議員になろうとしないのを、個人的には少し残念に思っている。亡きゲルマニクスに忠実で、彼の遺児たちやアグリッピナに変わらぬ敬意を示し続けている。一本気で誠実なその性格は、商人よりもむしろ議員や軍人として国のために尽くすことのほうが似合っているし、またそうしてくれれば、ドゥルーススとしても心強いのにと思う。もしも議員の道を選ぶなら協力は惜しまない、と話をしてみたこともあるが、サビヌスは「気持ちはとてもありがたいが」と言って断った。

「わたしはひとり子だ。父の期待を裏切れない」

 そう言われると、ドゥルーススにもそれ以上は何も言えない。サビヌスはドゥルーススの手を固く握り、真っ直ぐに眸を見て言った。

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