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第十章 混乱 場面六 軍団の暴動(二)

 グナエウス・ピソは言った。

『カエサルは我々の提案を拒絶しているのではない。その意味をもう一度よく考えるよう、同僚として我々に投げかけているのだ。ならば我々もそれを真剣に受けとめ、元老院議員として果たすべき責務を今一度自らの胸に問うべきである』

 そうだ。あなた方は知っているのか? 自分たちが一人の男に差し出した、ローマの「統治権」とでも言うべきもの―――すなわち「元老院の第一人者」という称号、終身権限としての護民官特権、全軍指揮権、そして、「ローマを守るために必要な全ての権力」(何という言葉だろう!)―――それが一体何を意味するのか。それは身に帯びる者にも、上に戴く者にも御しきれぬ、醜悪で巨大な怪物に他ならないのではないか? 怪物を戴く永遠の都―――この国は、一体どこへ向かおうとしているのか。

 いつかティベリウスは深い迷宮の闇の中で、虚空に向けて声を絞るのではないだろうか。「誰かわたしを、ここから出してくれ!」―――と。

 ピソは静かに盃を重ねていた。慰めも労わりも口にせず、ただ時折、「君は運がいい。この牡蠣(かき)はうちの料理人に毎日市場を見張らせて手に入れた上物だ」とか、「最近はさっぱりした味の酒が好まれるようだが、そんな奴らは水でも飲んでいろと思うね」といった、さらさらと流れるような言葉を、返事があろうがなかろうがお構いなしに、独り言のように口にしながら。

 アウグストゥスの死以来の緊張が、ようやく少しほぐれたのかもしれない。ピソが勧めてくれる酒はよく回った。夕食にはもう間に合わないにしても、キリのいいところで止めておかないと、明日は恐らく朝の伺候にやってくる人間も多いだろう。そんなことを思った時、ピソ家の執事が入ってきて言った。

「ドゥルースス・カエサル様がお見えです」

「ドゥルーススが?」

 ピソは微笑する。

「誰かに頼まれて呼びに来たか。ここへ通せ」

「かしこまりました」

 執事が出てゆくと、ピソはティベリウスに向かって言った。

「しばらく、三人で呑もうか。ミイラ取りをミイラにしてやろう」

「いや。迎えに来たなら、もう戻らなくては」

 正直もう少しゆっくり呑みたい気持ちもあったが、いいきっかけと見てティベリウスは身体を起こす。だがほどなくドゥルーススが入ってきて、そんなのんびりした話ではないことが判った。

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