第十七章 海辺にて 場面三 後継者指名(一)
十一月に入り、ティベリウスはドゥルーススが体調を崩したとの報を受け取った。ローマに戻るべきか少し考えたが、その後を追うようにして、まず代筆による書状が、数日後にドゥルーススの自筆による書状が送られてきて、差し当たり生命の危険はない事を知らされたため、帰還は見合わせることにした。静養に努めるようにとの簡単なメッセージと見舞いの品をローマに送ると、折り返し、一通の書簡と共に、美しい銀の象嵌細工が施されたインク壷と優美なペン、それに最上質の紙―――俗に「アウグストゥス紙」と呼ばれている最高品質のものだ―――が、これもまた見事な細工の文箱に収められて贈られてきた。心配をかけた事を詫び、見舞いへの感謝を述べた上で、こう書かれていた。
「六十二歳の誕生日おめでとうございます。こちらでは、祭祀団の儀式も滞りなく終了しました。とてもよい犠牲式で、きっと神々も、父上のご健康とご多幸とを今後もこころよくお護り下さることでしょう。それにしても、父上は本当に病気知らずでお過ごしですね。若いぼくの方が病に倒れ、父上のお心に負担をかけてしまったこと、とても恥ずかしく思っています。重ねてお詫び申し上げます。もうすっかり快復しましたので、どうぞご安心なさって下さい。
ささやかながら、不肖の息子よりお祝いの品を送ります。実は、邸の方に小ぶりの書き物机を一つ設えさせました。私室にもひとつあれば便利なのではと、以前から考えていたものですから。材質は黒檀で、足の部分に銀で装飾を施してあります。お送りした物と対の文様です。とても美しく仕上げていただいたので、ローマに帰還なさった際には是非ご覧になってください。
心からの敬愛と忠誠を込めて ドゥルースス」
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