表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/356

第十章 混乱 場面五 ラビュリントス(二)

 ティベリウスは一つ吐息を洩らし、踵を返した。ピソも並んで歩き出す。従者は少し後ろにいるようだった。共にパラティウムに邸宅を構えるだけに来るなとも言えず、ティベリウスはそのまま、壮大なアエミリア集会場(バジリカ・アエミリア)を左手に眺めながら聖道(ウィア・サクラ)を下った。

『カエサル、あなたはいつまで国家を頭のない状態にしておくつもりですか』

 ある元老院議員が言った。

 ティベリウスはこの問いには激怒した。頭のない状態とは何事か。始めから何度も言っている。この国を担うべきは我々であると。ここにいる元老院議員一人ひとりが、国家の頭脳なのだ。それを―――

 ピソの邸宅は坂を上がってすぐ、中央広場を見下ろす位置にある。代々受け継がれ、改築を重ねた格式ある建物だ。しばらく黙って肩を並べていたピソは、自邸が見え出すと、ティベリウスに言った。

「うちで軽く呑もう」

 ティベリウスは少し間をおいて、「ああ」と答えた。正直、リウィア―――いや、ユリア・アウグスタと言うべきか―――とも家人とも、誰にも会いたくない気分だった。アウグスタはアウグストゥスの死後も現在の邸に住み続けると言っているから、共に暮らす訳ではない。だがたとえそうであっても、あの母の目となり耳となる人間が、ティベリウスの邸にはウヨウヨしているのだ。

 おしゃべり好きな元老院議員とその妻たちを通して、早晩、議会でのやり取りも母の耳に入るのだろう。傍目にはほとんど茶番劇にしか見えない、第一人者就任までの滑稽なやり取りや、議員たちからアウグスタに贈られた「国母」という尊称をティベリウスが断ったこと、ティベリウスの名前に「ユリアの息子」と加えて呼ぶべきだと言われて抗議したこと。それを思うとうんざりする。

 ティベリウスはルフスに、ピソの家で軽く食事をして帰ることを家人に知らせるように命じた。



          ※



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ