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第十六章 ピソ裁判 場面一 グナエウス・ピソ(五)

「ピソ殿の弁護は、どなたが?」

「マルクス・レピドゥス、鳥占官(アウグル)ルキウス・ピソ、リウィネイユス・レグルスの三人だ」

 ティベリウスが挙げたのは、いずれも執政官格の元老院議員たちだ。マルクス・レピドゥスはパンノニア属州の反乱の際にティベリウスの下で戦い、凱旋将軍顕彰を受けている。ルキウス・ピソはグナエウス・ピソの弟で、兄に似て率直かつ潔癖な人柄で知られる。リウィネイユス・レグルスは古くからの貴族で、二年前、ティベリウスとゲルマニクスが執政官の地位にあったとき、東方へ派遣されていたゲルマニクスの代わりにティベリウスの補佐役を務めている。三人ともが、ティベリウスの信頼篤い男たちだった。恐らく、父が依頼したのだろう、とドゥルーススは思った。初めから負けることが判っている裁判の弁護人など、誰も進んでなりたいとは思わないに違いない。

 ドゥルーススはほとんど会話らしい会話を交わせないまま、父の前を退出した。こんなとき、父がいっそ愚痴の一つもこぼしてくれる男であったならと思う。今こそ、グナエウス・ピソの助言が欲しかった。状況が困難であれば困難であるほど、苦しければ苦しいほど、一人でその重みに耐えようとするのがこの父だった。この父に、面と向かって偏屈だ、石頭だといって憚らなかったピソなら、一体父にどんな言葉をかけただろうか。

『君にはもう、誰の助言も必要ないよ。あの男に関してはね。ティベリウスのたった一人の息子だ』

『彼は何よりも一人の元老院議員であり、我々の同僚である。かくも偉大であった第一人者の死を、同僚一人の肩に負わせるのは正当ではないとわたしは考える』

 生きて欲しい。ドゥルーススはそう願わずにいられなかった。ピソ以外の一体誰が、ドゥルーススやティベリウスにそんな言葉をかけてくれるというのだろう。たとえ元老院議員の身分を失おうとも、財産を没収されようと、どうか希望を捨てず、生き抜いて欲しい。父のために、ドゥルーススのために。そして何よりも、マルクスやグナエウスために。

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