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第十章 混乱 場面五 ラビュリントス(一)

 閉会は、執政官アップレイユスによって宣言された。

「第一人者殿」

 ユリウス議事堂を出ようとしたティベリウスは、その声に立ち止まる。グナエウス・ピソはにっと笑い、ティベリウスの肩を軽く叩く。

「就任おめでとう」

「………」

 ティベリウスは返事をしなかった。そのまま再び歩き出す。時刻は昼第八時(午後三時頃)を回ったところだった。秋に入って間もない日差しはまだ強く、大理石の白が反射して目に眩しい。こんな時間になることは滅多にない。第四時(午前十時頃)から始まる元老院は、昼前に終わることも多いのだ。早速輿に乗り込む者、従者が見つからずに大声で名前を呼ぶ者で、議事堂の周囲はごった返していた。

 ゆっくりと階段を下りたティベリウスを、従者のルフスが迎える。常に取り巻きを従えていたアウグストゥスとは違い、ティベリウスは護民官特権を持つ者に与えられる先駆警吏も連れず、従者だけを伴い、一人で会場にやってくるのを習慣にしている。ルフスは忠実な男で、ティベリウスはどんなに待たせた時でも、この男の姿を探したことはない。今日も黙ってティベリウスを迎え、影のように後ろについた。四刻(約五時間)近く待っていたルフスの服は、汗でびっしょりと濡れている。

 ティベリウスは左手に広がる、列柱廊に囲まれた神君カエサルの広場に視線を向けた。その中央に置かれている、神君カエサルの騎馬像をふと思い浮かべる。神君ユリウス・カエサル―――ローマ史上初の終身独裁官に就任した彼は、元老院の開催日に、会場となるはずだったポンペイウス劇場―――場所はローマ広場にではなく、マルスの野にある―――で殺害された。独裁者の登場を嫌った元老院議員たちの狂刃を全身に浴びて倒れたのだ。傷は二十三カ所にも及んだという。今から五十八年前、三月十五日(イドゥス・マルティアエ)の出来事だった。まさに彼こそが、現在のローマの始まりだった。繁栄を謳歌する、黄金の都ローマ。広大な領域に及ぶローマの覇権―――そのもとでのローマの平和(パクス・ロマーナ)。羊の群れに成り下がった元老院議員たち。哀れなローマ。

 ああ―――いっそ、誰かわたしの胸を衝くがいい! わたしこそ独裁者だ。お前たちは、あの神君にさえ刃をつきたてたのではなかったか。あの日から五十八年の歳月が流れた。もはや誰もいないのか? さあ、独裁者はここにいるぞ!

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