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第十五章 ゲルマニクス神話 場面六 後継者(四)

「父上」

 ドゥルーススは沈黙を破って言った。

「ユリアを、ネロに(めあ)わせたいと思っています。クレティクス・シラヌス殿には申し訳ないですが………その方がいいのではないかと。どうお考えですか」

 ドゥルーススの長女ユリアは十一歳になったところで、ゲルマニクスの長男ネロは十三歳だ。ネロは、ピソの前任者であるシラヌスの娘と婚約している。だが、こうなっては破談もやむを得ないと思う。ティベリウスはようやくドゥルーススを見つめ、眸で同意を示した。

「それはわたしも考えていた。今年はネロの成人式を予定している。その時にでも早速公表しよう」

「はい」

 ティベリウスは軽く頷いた。互いに口に出さなくても判っている。ドゥルーススは「中継ぎ」だった。ティベリウスがそうであるように。ドゥルーススはゲルマニクスに代わって彼の遺児たちを―――アウグストゥスの血を継ぐ者たちを守り、彼らに権力を引き継がなければならない。それがアウグストゥスの望みであり、市民たちの願いなのだ。マルスの野に集い、口々に嘆きや祈りや呪いの言葉を叫ぶ市民たちの存在が、そのことを何よりも明白に示していた。

 ドゥルーススは父の身体に軽く手を触れた。

「そろそろお休みになって下さい。夜気も冷たいし、傷にも障ります」

 ティベリウスは僅かに苦笑する。

「すっかり年寄り扱いか」

「お年の問題ではありません。父上は怪我人ですよ」

「………妻がいないと、息子が妻か娘並みに口煩くなるな」

 ドゥルーススは少し意外な気持ちで父を見た。父が「妻」の事を口にするなど、滅多にないことだった。ティベリウスも自身そう気づいたのか、わずかに決まり悪そうな表情になる。それから思い切ったように言った。

「お前の母の体調が優れないようだ。そのうち一度顔を見せてやりなさい」

「はい」

 ドゥルーススは頷く。父は一体どうしたのだろう。先頃アントニアの見舞いにきたウィプサーニアと、父は対面した。どんな話をしたのだろうか。父がその話をドゥルーススにしてくれるとはとても思えなかったが、父の中で、何かが吹っ切れたようだった。

「小凱旋式を、母上に見ていただきたいです」

 ドゥルーススが言うと、ティベリウスは「そうだな」と短く答える。それから再びドゥルーススがせっつくと、苦笑しながら寝台に戻った。

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