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第十五章 ゲルマニクス神話 場面六 後継者(一)

 翌日、納骨の儀式が行われた。ティベリウス、アウグスタ、アントニアは欠席したが、それ以外の全ての家族が参加した。両執政官以下、ローマにいるほとんど全ての元老院議員と、群集と化した一般市民たちを前に、ドゥルーススはローマ広場でゲルマニクスの追悼演説を行った。

 神君アウグストゥスを大叔父にもつ高貴な血筋を誇り、神君の孫を妻とし、直系となるその子供たちの父でもあった。だがそれを鼻にかけるようなところは微塵もなく、快活で親しみやすく、誰にでも優しかった。早くに死んだ父に代わって、神君の姪でもある母アントニアを大切に守り労わり、妻を愛し、子供たちを慈しみ、兄弟にも友人にも信義を尽くした。養父である最高司令官ティベリウスへの忠誠と献身については、今更ここで言うまでもない。「ゲルマニクス(ゲルマニアを征した者)」の名に相応しく、ゲルマニアでは雄々しく戦った。蛮族をことごとく打ち破り、三十歳の若さで凱旋将軍となった。そして間もなく、東方で見事に果たした任務に対し、小凱旋式を挙行する予定となっていた。

「ほんの二年前に行われた凱旋式の光景は、わたしの眼に焼きついている。本当ならわたしたちは、このローマで彼の堂々たる騎馬姿を眼にすることが出来るはずだった。それなのに、無慈悲な運命により、こんな形で彼をこの地に迎え入れねばならないとは、一体誰が予想できただろう。彼が成し遂げた数々の業績を一つ一つ数え上げてみて欲しい。その死が、このローマにとってどれほど大きな損失であることか。そして、我々家族にとって、友人にとって、同僚である元老院議員たちにとって、ここに集まって下さった市民一人ひとりにとって、その存在がいかに大きなものであったか」

 耳を傾ける人々の間からは、すすり泣きの声が聞こえてきた。

 追悼演説は、ドゥルーススが自ら文章を作り、それをティベリウスとアウグスタに見てもらった。アウグスタは一読して眼を赤くし、素晴らしい出来だと褒めてくれた。父は時間をかけてそれを読み、必ずもう一度声に出して読んでおくようにとだけ言った。

「内容や文章はどうですか」

 ティベリウスは少し考えてから答えた。

「これはお前にしか書けない。内容も、文章も。下手に手を入れては何かを損なってしまうだろう。このままでよい。読むのはお前だ」

 それから、軽い口調で付け加えた。

「お前がわたしのために弔辞を読んでくれるのを、この耳で聞くことが出来ないのがとても残念だな」

 ドゥルーススは苦笑した。



          ※



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