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第十五章 ゲルマニクス神話 場面五 無言の帰国(四)

 セイヤヌスはティベリウスの部屋の前に立った。傍らにいた使用人が扉を開き、ドゥルーススとセイヤヌスは中に入った。中の光景に、ドゥルーススは息を呑む。

「父上―――!?」

 父は寝台に横たわっていた。ドゥルーススを見ると、僅かに顔だけを上げ、息を吐き出したのが判る。顔色が青い。

「お連れしました」

 セイヤヌスは折り目正しく言う。ドゥルーススはセイヤヌスを振り返る。

「怪我を―――?」

 セイヤヌスは頷いた。

「これが理由です。今朝、暗殺未遂があったんです」

「傷は?」

「命に別状はない」

 答えたのは父だった。ドゥルーススは寝台に歩み寄った。

「どういうことなんですか。一体誰が? 何の目的で?」

「神々の怒りだそうだ」

「はっ?」

 人を食った返答に、ドゥルーススが思わず場違いな間の抜けた声を上げてしまう。横たわったままの父はかすかに笑みを浮かべた。

「今、セイヤヌスに調査させている。生け捕りにする余裕がなかった。お陰でセイヤヌスにぼやかれたが」

「ぼやいてはおりません。次からは口がきける状態で引き渡して下さいとお願いしただけです。捜査の手間が全然違いますので」

「努力はする。だが、わたしの方が口がきけない死体になってしまっては、引き渡すも何もあるまい」

 ティベリウスは少しだるそうだったが、軽口を叩ける程度にはしっかりしていた。命に別状はないとはいっても、起き上がって普通に動くことができないほどには重傷なのだ。

「「神々の怒り」とは?」

 セイヤヌスが口を挟んだ。

「暗殺者がそう叫んだそうです。「ゲルマニクスの無念を知るがいい」―――と」

「ゲルマニクスの無念? そんな―――」

「まだ何も判らない。予断はよそう」

 ティベリウスは話を遮った。だが、セイヤヌスはむしろ面白がるような口調で続ける。

「少し落ち着いてはきましたが、ゲルマニクス毒殺の話はいまだにホットな話題ですからね。ネタは尽きないようですよ。バラまかれているビラの内容も、毒殺の真相からピソ殿の裁判の進行予測まで―――まあ、色々と。大胆にも、この邸の壁にベタベタと貼り付けていった輩もいる。仕事を休んで暇な連中が多いんですかね。夜警隊のこの頃の主な仕事は、ビラはがしと壁の落書き消しだそうですよ。水で消えるものなら彼ら、消防のベテランだけにお手の物ですが、壁に彫りこまれると中々厄介です」

「セイヤヌス」

 ティベリウスが再び苦笑交じりに話を遮ると、セイヤヌスは肩を竦める。

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