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第十五章 ゲルマニクス神話 場面三 アントニア(四)

 その日から、アントニアは起き上がれなくなった。熱は五日ほどで最初よりも下がったものの、微熱がずっと続いた。エウデムスは、倒れた直接の原因は悪性の風邪だと思われるが、根本的にはゲルマニクスの死以来の疲れが一気に出たとしか言いようがない、とティベリウスに告げた。ずっと食欲もなく、不眠も続いていたという。病はこの気丈な義妹から、残っていた最後の気力まで奪ったかのようだった。アントニアは夢と(うつつ)の間を彷徨(さまよ)うかのように、短く浅い眠りと覚醒とを繰り返した。目覚めても、大抵は夢の中にいるようにぼんやりと宙を眺めていた。

 それでも傍らに誰かがいることに気づくと、大抵は申し訳なさそうな様子を見せ、時に非常な努力をして話そうとしたり、身体を起こそうとするので、ティベリウスは身内と家人以外の一切の見舞いを取り次がないように、また身内にも、可能な限りこの病人を煩わせることがないように指示した。

 アントニアは最初の昏睡から醒めると、熱のために潤んだ眸でティベリウスを見つめ、かすれた声で謝った。

「ごめんなさい―――」

 乱れた呼吸を必死で整えようとしながら、何度も言った。

「ごめんなさい、ティベリウス………」

 ティベリウスには、一体義妹が何を謝っているのか判らなかった。手を煩わせた事を? この慌しい時期に倒れてしまった事を? だが、理由を問いただすには、義妹は余りにも弱っていた。ティベリウスは義妹の手を握り、あなたがわたしに謝るような事があるとは思えないが、話は健康を取り戻してから聞く、と言った。

「とにかく今は気持ちを楽にして、静養に努めてくれ。あなたは疲れすぎている。エウデムスもそう言っていた」

 義妹はまた涙を流した。



          ※



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