第十五章 ゲルマニクス神話 場面三 アントニア(二)
そんな中、リウィッラが双子の男児を出産した。ドゥルーススはいまだパンノニアにおり、北の国境に動揺が起こらぬよう目を光らせる役目を続けている。ティベリウスは手ずから息子に書簡を認め、双子の男児誕生という慶事を告げた。その上で、遺骨と共にローマへ戻ってくるアグリッピナを迎え、ゲルマニクスの国葬を執り行うため、早めに首都へ戻るように指示した。
双子は、ドゥルーススが以前から長男をティベリウス、次男をゲルマニクスと名づけたいと言っていた事から、それぞれにその名が与えられる予定であるとも書いた。本来ならばドゥルーススの意向も聞いてやりたいが、命名の儀式は誕生から九日目、パルカの女神に犠牲が捧げられる日と決まっている。間もなく返書が届いた。すぐに帰還の用意をすることを述べた上で、命名に関してはそれが自分の望むところであり、気遣いに深く感謝する旨を書き送ってきた。
ティベリウスはアントニアに書簡を見せた。
アントニアは頬笑んだ。
「あの子は真面目ね」
義妹はこの一ヶ月ほどの間に随分と痩せた。その頬笑みは快活だった以前とは異なり、どこか幽かなものだった。二人で話すのは久しぶりのことだったが、努めて明るく振る舞っているのが判って痛々しい。
ドゥルーススはこう書いてきたのだ。
『この手紙が届く頃には、命名の儀式も無事終わっていることと思います。先に生まれた方をティベリウス、後に生まれた方をゲルマニクスと付けていただければと思っていますが、双子の赤子というのは果たして見分けがつくものなのでしょうか。初等学校に通っていた頃、同じ先生の下に双子がいましたが、ぼくには最後まで見分けられず、いつもゲメルス、と呼んでいました』
「ゲメルス」は「双子」という意味だ。ティベリウスとゲルマニクスも、区別する必要のない時はゲメルスと呼ばれている。




