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第十五章 ゲルマニクス神話 場面二 混乱(三)

 軍団兵たちが相当数ピソの許へ馳せ参じたことは、シュリアからの複数の報告書で知っている。その数は報告書によって異なっていたが、下手をすると三千を越えるともいう。ピソがキリキアや各属州の守備隊を集めれば、下手をすると一個軍団―――六千近い兵がピソの下に終結することにもなるるだろう。彼らを率いてシュリアへ戻ろうとすれば、サトルニウスとの間で武力衝突は必至だ。

 ティベリウスはもう一度書簡を読んだ。「君の忠実な友」―――そうだ。ピソは常にティベリウスに忠実だった。それは元老院でティベリウスに対して反論を展開していても、ティベリウスを叱責さえしている時でさえ、そうだったのだ。わたしの忠実な友、誇り高い生粋の貴族であるグナエウス・カルプルニウス・ピソ。政務官としてのピソの力量を、ティベリウスは信頼している。だが、軍人としては、率直に言ってそれほど評価してはいなかった。一方、グナエウス・センティウス・サトルニウスは、ゲルマニアでティベリウスの副官を務め、凱旋将軍顕彰を受けた、ガイウス・センティウス・サトルニウスの息子だ。この息子は、ゲルマニア再制圧がスタートした紀元四年には、ゲルマニアへ発った父に代わって補欠執政官となり、その後パンノニア・ダルマティア反乱の際には父と共に軍に参加している。間もなく父が高齢のために亡くなってからも、ゲルマニアの戦場に留まり続けた。彼は政務官というよりもむしろ軍人だ。

 戦いになれば、ピソはまずサトルニウスに勝てないだろう。戦い、敗れたとして―――ではその後は? ゲルマニクスの人気は絶大だ。死んだことによってその「人気」は、同情もあってますます高まるに違いない。ゲルマニクスへの同情は、そのままピソへの憎悪へとつながる。アグリッピナとゲルマニクスの幕僚たちは、ピソがゲルマニクスを毒殺したと思い込み、訴訟の準備を既に始めているという。ゲルマニクスもそう信じて死んでいったとのことだった。

 あのピソが毒殺を謀るなど、そんなことは到底考えられない。陰謀をめぐらせるには余りにも率直かつ廉直な男だ。刺し違えることはあっても、謀殺はありえない。しかも、自分にも他人にも厳しい。もしもピソの側にそうした陰謀があったとしても、それがピソの耳に入れば、あの男は間違いなく、直ちに犯人を法廷に突き出すだろう。



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