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第十章 混乱 場面四 元老院(二)

「元老院議員諸君」

 ティベリウスは自席から議場を見回し、しばらくの沈黙の後ようやく口を開いた。

「諸君にまずお願いしたいことがある。「アウグストゥス」という称号だが、確かに、わたしはこの高貴な称号を、偉大なる父から使用を許された。だが、「至尊者(アウグストゥス)」の名に値するのは、わたしにとっては今も我が父一人であり、まして、同僚であるあなた方からそのような身に余る称号でもって呼ばれることをわたしは望んでいない。どうか今までどおり、カエサルの名でわたしを呼んでいただきたい」

 議員たちの間で、戸惑ったような囁きが交わされる。ピソもドゥルーススに耳打ちした。

「あの石頭め」

 ドゥルーススは苦笑する。だが、ピソは笑っておらず、真面目な―――というよりも、むしろ渋い顔をしていた。

「モメるぞ、事によっては」

「―――」

 ドゥルーススはピソを見たが、父が話を再開したので、再び視線を父に向ける。

「元老院議員諸君。どうか思い出していただきたい。アウグストゥスが、どれほど偉大であったか。東はエウフラテス(ユーフラテス)河から西はヒスパニア(スペイン)まで、南はアフリカ(北アフリカ)から北はゲルマニア海(北海)にまで及ぶ広大な領土をもち、四千五百万の人口を抱えるこのローマを統治することがいかに困難であるか、それはアウグストゥスと共にその任に当たってきたわたしが、日々痛感してきたことである。

 なるほど、諸君が提案した名誉と権限の数々は、アウグストゥスであれば、その重責にも耐えられよう。だがわたしには、つい先日神々の列に加えられさえしたアウグストゥスと同じものが、我が身に差し出されたことだけで畏れ多いことであり、既に十分過ぎるほどの名誉である。わたしもこの栄えある元老院議員の一員として、持てる能力の全てをこの国に捧げて悔いることはない。だが、わたしの力量は、とても諸君が今提示したような重責に耐えうるものではない」

「アウグストゥス」

 その時執政官格のアッルンティウスが、痺れを切らしたように立ち上がって言った。

「いや、お望みであればカエサルとお呼びしてもいい。だが、どうかはっきり言っていただきたい。あなたはこの提案を受諾なさるのか? それとも、元老院議員の総意を、受け入れることを拒否なさるのか?」

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