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第十五章 ゲルマニクス神話 場面一 ゲルマニクスの死(三)

 ピソは兵士たちに待機を命じた上で、友人を集め、これからの事を話し合った。ゲルマニクスの葬儀はアンティオキア(アンタキオア)で大々的に執り行われ、多くの名士が競って追悼演説をしたという。その後広場で荼毘に付されたが、その身体は裸にされ、物見高い観衆たちの前で毒殺の兆候の有無をつぶさに調べられたのだそうだ。全くバカバカしい話であると同時に、そんな風に遺体を扱われたゲルマニクス自身こそ気の毒だった。彼の友人たちとアグリッピナ、そして子供たちは、復讐に燃える心を胸に、ゲルマニクスの遺骨を抱き、早々にアンティオキアを発つつもりらしい。

 友人たちの多くは当然のようにシュリアへの帰還を勧めた。その一人、ドミティウス・ケレルは言った。

「そもそも君がこんな小島で無為に時を過ごす破目になったのは、ゲルマニクスが君を勝手に罷免したからだ。最高司令官と元老院から正式に属州総督に任じられた君を、身勝手な理由で任地から追放した。そのゲルマニクスが亡くなった今、ここに留まっている理由は何もない。こんな事態になって、現地は相当混乱しているはずだ。ただちにシュリアへ戻り、総督として混乱を収拾し、属州統治に当たるのが君の義務だろう。サトルニウスは一体何の権限で属州を治めようというのだ。さっぱり理解できない。むしろ、属州総督である君に対し、帰還を求めてくるのが筋ではないか」

 ピソも同意見だった。ピソはゲルマニクスからの罷免の通達に対し、ローマからの指示を待っている状態だ。だが少なくともサトルニウスには何の権限もないし、ピソは自分が正式な総督であると思えばこそ、こうしてこの島にいるのだ。その考えに大抵の者が同調した。

 ところが、息子のマルクスが、意外なことにそれに真っ向から反対した。マルクスはピソに対して時に意見を述べることはあったが、その言葉は大抵控えめであり、余り強く自己を主張する型の人間ではないと思っていたのに。その息子が、年長者たちの意見に正面きって反論してくるとは。

 マルクスは、すぐにローマへ戻るべきだと主張した。今戻っては、下手をすると後事を引き受けたサトルニウスとの間で武力衝突が起こる可能性がある。市民たちもゲルマニクスの死で興奮しているはずであり、どれほどの混乱が起こるか判らない、というのがその理由だった。

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