第十章 混乱 場面四 元老院(一)
「執政官セクストゥス・ポンペイユス並びにセクストゥス・アップレイユスは、次の事項について、元老院議員諸君の議決を願うものである。
アウグストゥスの後継者であるティベリウス・カエサルに、元老院が次のことを認めること。
一つ、亡きアウグストゥスの前例に従い、カエサルに「元老院の第一人者」の称号が与えられること
一つ、カエサルには、前年既に与えられている、「ローマ全軍指揮権」が、今後とも継続されるべきであること
一つ、カエサルには、十年前より認められている「護民官特権」が継続して認められ、それは期限なしの終身権限とすること
一つ、カエサルには、生前のアウグストゥス同様の、ローマ国家を守るために必要な全ての権力が与えられること
以上、四つの事項につき、議決を願いたい」
九月十四日、アウグストゥスの神格化を決議したのに続き、九月十七日に開かれた元老院では、両執政官の名で一つの動議が提出された。それは短く言えばティベリウスに生前のアウグストゥスと同じ権力を継承することを認める、というものだった。
動議は投票にかけるまでもなく、一斉に起立した議員の満場の拍手によって可決となった。
執政官の一人アップレイユスが、普段どおりに元老院議席の最前列に腰を下ろしているティベリウスに向かい、代表して呼びかけた。
「アウグストゥス。これが我々元老院議員の総意だ。どうか我々の気持ちを受け取っていただきたい」
ティベリウスは立ち上がった。ドゥルーススは二列目に、グナエウス・ピソと共に腰を下ろしていた。正直なところドゥルーススも、他の議員たち同様、父が直ちにこの動議を受諾し、続いて施政方針のひとつも語った上で、ローマの運営に取り掛かるものと信じて疑っていなかった。




