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第十四章 対立 場面二 東方問題(七)

 ピソはかつてティベリウスに言ったことがある。

「君はわたしの妻が苦手なようだが、わたしにしてみれば君の細君の方が判らんな。一緒にいてもずーっと黙ったきりで、一体何が面白い」

 ここでいう細君とはウィプサーニアのことだ。ティベリウスが妻を愛していることはよく判っていたから、本気ではなく、ただからかってみただけだ。

 ティベリウスは苦笑していた。出しゃばり女の典型であるリウィアに育てられたあの男は、その種の女がとにかく嫌いなのだ。どこにでもしゃしゃり出る女、夫を支配しようとする女、口うるさい女を、ティベリウスはほとんど生理的に受け付けない。これがピソであれば、ウィプサーニアにはとても満足できなかっただろう。ウィプサーニアがピソと同席することはほとんどなかったが、同席したにしてもこの女性は無口だった。話しかければ控えめに応じるが、大抵は淡い微笑を浮かべたまま、ピソと夫とが話しているのを見つめていたのだ。

 ピソはこの属州の気候がすぐに気に入った。シュリア属州は、決して乾いた砂漠ではない。水は一年を通して豊富だ。雨季である冬から秋にかけてはまとまった雨が降る。この時期には、水は濁流となってシルピウス山から流れ落ち、洪水の方を警戒しなければならないほどだ。初夏から秋にかけては爽やかな風が地中海からオロンテス川を吹き登ってくる。夏は確かに過酷な暑さにもなったが、午後から夜にかけて、神々の恵みであるかのようなこの爽やかな風が吹く時間帯は、案外しのぎやすかった。それに、ピソはアフリカ属州の総督も経験している。あの属州に比べれば、この地のほうがずっと快適だった。

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