第十四章 対立 場面二 東方問題(五)
ゲルマニクスの任務は、まずはこのローマの友好国アルメニアに赴き、このゼノネスに王冠をかぶせることだった。ゼノネスを選んだのはアルメニア人自身だ。難しい任務ではない。ゼノネスは即位に当たってギリシア風の名「ゼノネス」を、アルメニア風の「アルタクセス」に改名するよう命じられた。ティベリウスがこの新王に出した唯一の条件だった。
パルティア王となったアルバヌスも、ローマと事を構える意思は今のところないようだった。この機に友好条約を更新することが予定されており、当然その使節はゲルマニクスが務めることになるだろう。
更に、東方に生じた情勢の変化は、もうひとつあった。アルメニアの西に位置する小国、カッパドキア王国とコマゲネ王国が、相次いで空位になったのだ。前者の王は反ローマ的行動を臣下から告発されてローマに召喚されており、後者の王は後継者を指名しないまま亡くなった。
ティベリウスはこの二つの国を、この機にローマの第一人者直轄の属州とすることに決め、それぞれに総督を派遣した。ただし、シュリアとも接するコマゲネの方は、執政官格ではなく、一段下の法務官格の人間が派遣されており、これも基本的にはユダエア属州同様、シュリア総督の監督下に入ることになる。コマゲネからは、近いうちに使者が送られてくる予定になっていた。
ピソが派遣されたのは、そんな状況下だったのだ。
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